第26話・元素
ここで、水素とヘリウムとの見分け方を知っておこう。
のちに現れる人類が整頓した「元素の周期表」、つまり物質の種類一覧表を見ると、第1番めに水素がのっていて、2番めがヘリウムとなっている。
この番号は、=原子核内に含まれる陽子の数、なんだ。
つまり、1番めの水素にあてがわれた「ゼッケン1」は、陽子を一個だけ持っていることを意味している。
逆に言えば、陽子を一個だけ持っているのは、必ず水素の類だ。
陽子一個きりでできている原子核であるヨウシくんは「水素」原子核で、陽子が一個と中性子が一個のユニットは「重水素」原子核、というわけだ。
一方、ヘリウムが囲っている陽子の数は、二個だ。
さっき出てきたヘリウム4なら、陽子が二個に、中性子が二個という構成になっている。
あえて言わなかったけど、その前段階に出てきた、陽子が二個に、中性子が一個、という三人組原子核は、ヘリウム3という。
名前の後ろについた数字は、核子の個数(陽子+中性子の総数)だよ。
このように、陽子を二個だけ持つものは、どれもヘリウムだ。
陽子の数は、元素の性格に決定的に関わってくる。
だから、陽子の数のみによって、それぞれの元素は分類されるんだ。
ただ、原子核には中性子も組み込まれているよね。
なのに、その数はあまり関係ない。
流浪の民である中性子は、いわば原子核の中に居候をさせてもらっている立場だ。
役割としては、+電荷同士の陽子たちをなだめすかして隣り合わせておく、つまり緩衝剤のような任を担っている。
だから、原子核内に含まれる中性子の数は、結構テキトーな感じになる。
が、陽子の数は決定的に重要だ。
陽子が一個きり含まれる原子核は、中性子が何個くっついていようがいなかろうが「水素」となる。
そして陽子が二個になると、中性子の数にお構いなく「ヘリウム」という別の元素になる、というわけだ。
陽子の数が一個違うだけで、それぞれはまるで別の人格を持つことになるので、世界の多様性は陽子の個数に依存しているといっていい。
そんなこんなでぶつかり合いをくり返し、ヨウシくんがひとりぼっちになる一方、別の陽子が二個と、中性子が二個、という編成で、ついに安定したヘリウムの原子核が生成された。
これもまた、歴史的な大事件だ。
なにしろ、今まではこの宇宙ときたら、水素だけでやりくりしてきたんだから。
なんにもない中に、ただ単純なつくりの水素が存在するきりだったんだから。
・・・いや、実は他の物質も特殊な事情でごく少量だけは存在していたんだけど、それはちょっと話をややこしくするんで、この物語では忘れておこう。
ともかく、素粒子であるクォーク三つからできた陽子たちは、いくつかの自然の法則だけを用いて、水素を、そして今、ヘリウムの原子核をつくりあげた。
これは、世界でただ一種類しかなかったレゴブロックのパーツが、二種類に増えたってことだよ。
しかも、水素のパーツはとてもシンプルだけど、ヘリウムは少し複雑な形をしている。
このふたつを使ったら、もっとにぎやかな世界もつくれそうだ。
やり方はもうわかっているし。
かつて経験した「分子」のつくり方を用いればいいんだ。
こうしていろんなタイプのパーツをコンプリートしては、お互いにくっつき合い、いろんな形を組みあげていくわけだ。
なんてたのしそうなパズルだろう。
がんばれ、ヨウシくん。
燃えよ、原子核たち。
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