第25話・ヘリウム

二度の核融合をへて、「三人組の原子核」という未知なるステップに進んだヨウシくんなんだった。

だけどこのユニットの構成は、少し据わりが悪い。

なにしろ、オカマのチューセーシくんをまん中に置いて、仲の悪い・・・つまり+電荷同士で反発し合うふたりの陽子が両サイドにいるわけなんだから。

ケンカをやめて、私のために争わないで・・・と昭和歌謡のようにつぶやくチューセーシくんだけど、まんざらでもない顔をしている。

誰がおまえのためになんか争うかっ・・・とこぶしを握るヨウシくんだが、三つのからだは強い力で結びつけられてしまっていて、どうすることもできない。

そのとき、千載一遇のチャンスが訪れた。

ヨウシくんたちの三人組原子核に、同様のトリオを結成した原子核が、猛烈な勢いで迫ってきたんだ。

またしても、正面衝突だ。

三人組原子核(陽子二個と中性子一個)+三人組原子核(陽子二個と中性子一個)で、ごっちーん・・・

核融合!

このとき、まったく意外なことが起きた。

三人組原子核が二セットでぶつかったわけだから、くっついて、合わせて六人組原子核ができる、と思うだろう。

全部を足して、陽子×4と中性子×2になると考えるのは、自然なことだ。

ところができたのは、陽子×2と中性子×2の四人組、「ヘリウム4」原子核(あまり陽子×2)だった。

メンバーから外れた二人の陽子は、そこに入ることができずに、追い出されてしまったんだ。

行き場を失って呆然とする二人に対して、ユニットを組んだ四人は得意満面だ。

なぜなら、新登場の「ヘリウム4」は、量子力学界のスーパースターとでもいうべきかっこいいやつで、実験室でも引っ張りだこの存在なんだ。

なにしろ、安定感が違う。

陽子と中性子が二個二個だから、かちっ、とおさまりがいいんだろうね。

生まれたてのくせに、はや「まかしとけ」的なベテランの風格がある。

ともかく、陽子二人と中性子一人の三人組原子核同士がぶつかっても、総勢六人は、四人だけがメンバーに選抜されて、二人が削られ、ヘリウム4の原子核としてどっしりと落ち着いてしまうんだ。

問題は、はじかれた側の二人の陽子だ。

ちょうどヨウシくんも、定員から漏れ、追い出されてしまった。

この二人は、ラブラブダブルデート的な四人組とは別に、落ちこぼれ同士で敗者復活ユニットを組むわけでもない。

無残にも、散り散りのほったらかしにされてしまう。

またしてもヨウシくんはひとりぼっち、というわけだ。

だけど、負け惜しみではないが、ふと思う。

これでいいのさ。

ぼくには孤独がお似合いだ。

また気ままにひとり旅をするまでさ・・・と。

なるほど、オカマちゃんとの密着席は、男気を重んずる彼には居心地があまりよくなかったのかもしれない。

窮屈な原子核内の束縛から逃れて、再びのびのびと飛びまわるヨウシくんなんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る