第23話・核融合
陽子と陽子が、すごい勢いでぶつかり合う。
ぶつかったショックで、ふたつの陽子のうちの一方が中性子に変わる。
変わった中性子は、ぶつかった相手の陽子とくっつく。
陽子+中性子というユニットで、新たに重水素原子核となる。
「核融合」だ。
核融合は、貧相な物質同士を組み合わせて、少しゴージャスな物質へとバージョンアップさせてくれる現象といえる。
そしてこの現象を、のちに発生することになる人類は、爆弾に応用した。
水素爆弾=スイバクだ。
きみもなんとなく知っているように、核融合は核子同士をくっつけると同時に、破壊的なエネルギーを生むんだ。
逆に、たくさんの核子が絡み合う複雑な原子核をほぐして分割する現象を、「核分裂」という。
この際にも巨大な爆発力が生まれる。
こちらもまた、原子爆弾=ゲンバクや、原子力発電=ゲンパツでおなじみだ。
ここでは、核分裂の方はおいといて、核融合の話をしよう。
核融合で、原子核同士はお互いにくっつき合う。
このとき、核子は少しだけ質量を減らすんだ。
これを、質量欠損、というよ。
そうして失われるほんの少しの質量(ゼロコンマ数%)は、莫大なエネルギーに変換される。
これを、結合エネルギーという。
質量欠損分=結合エネルギー量、なんだ。
なんと、質量はエネルギーに変えることができるんだ。
別の言い方をすれば、質量はエネルギーのひとつの形だ。
「物体」とは、凝縮された「力」の姿なんだよ。
これは、アインシュタインさんが相対性理論の中で語っていることのひとつだよ。
かの有名な「E=mc2」という式は、このことを表しているんだ。
この式を言葉で解説すれば、「エネルギー(E)は、質量(m)と交換できるんだよ、光速(c)の二乗という係数をからめて」ということになる。
なんで光速の二乗?スピードが関係あるの?と不思議に思うかもしれない。
でも、かしこいひとってのはいるものなんだ。
速度という概念は、空間的なひろがりと時間とをかけ合わせたものだから(距離×時間=速さ)、要するにアインシュタインさんは、この式ひとつの中に、空間と時間、さらにエネルギーと物質とを、全部一緒くたに盛り込んでいるんだ。
くだいて言えば、空間と時間は同じものですよ、ついでにエネルギーと物質も同じものですよ、ってこと。
この世界の仕組みすべてを、ひとつの式で表現しよう、という試みといえる。
ま、そのへんの難しい内容は、このお話の最後の方で説明するよ。
とにかく、陽子と中性子が結びついたときに発生する質量の欠損分が、光速の二乗という大きな数字をのっけてエネルギーに変換され、すさまじい爆発力を生んでしまうのが、核融合なんだった。
その核融合は、高温と高圧という特殊な条件下で起きる。
さて今、水素たちの天体は刻一刻と密度を上げ、みしみしと凝縮しつつある。
核融合を起こすのに、ちょうどいい環境だ。
中心部では、陽子・・・いや、今や水素原子核、と呼んだほうがいいかな・・・たちが次々に核融合をはじめ、くっつき合っては、続々とワンランク上の重水素の原子核になっていく。
さっきのヨウシくんとチューセーシくんがくっつくくだりでは、すでにきみたちが知るように、ひとつだけはしょった表現がある。
ふたりは核融合でくっつく際に、大爆発を起こしたんだ。
ドッカーン・・・!
いわゆる、核爆発だ。
からだの一部、ほんの少しをそぎ落とし、エネルギーに変えて、ふたりは驚くべき炸裂の中で、ひとつにとけ込む。
そうすることではじめて、新しい原子核に生まれ変わることができる。
そんな体当たり爆発が、天体中心部の水素原子核たちの間でじゃんじゃんとおっぱじまった。
ぶつかる、蹴とばす、片方が中性子になる、くっつく。
その際の結合エネルギーが、派手な爆発となる。
ドッカン、ドッカン・・・
もうとまらない。
あちこちで、ぶつかってはぶつかっては、爆発しつづける。
そうして、くっついてはくっついては、新たな原子核ができていく。
その人口密度と核融合の乱れ打ちは、まるで隅田川の花火大会を、ひとでごった返すメインストリートで見ているかのようだ。
花火が上がれば上がるほど、新しいカップルが誕生して、いよいよ密着し合うというわけだ。
それにしたがい、天体はますます縮んでいく。
高い圧力のかかる中心部に、重い重水素原子核が高密度にたまっていく。
天体は、梅干しの種のようにギュッと詰まった芯を形成しつつある。
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