第22話・重水素

話をもどすと、ヨウシくんは別の陽子とすごい勢いでぶつかったんだった。

その挙げ句に、強い力によって相手とくっつけられそうになっている。

ヨウシくんが思わずケリを入れると、相手の陽子から、陽電子とニュートリノが吐き出された。

そのときだよ、驚くべきことが起こったのは。

相手の陽子が、なんと中性子に変身したんだもの。

チューセーシくん?!

ヨウシくんは仰天した。

世界からいなくなったはずのあいつが、ひょんなことから戻ってきたんだ。

ぽろりとこぼれた陽電子とニュートリノは、キンタ・・・男の子にとって大切なものだったのかもしれない。

とにかく、相手の陽子は+電荷を失い、オカ・・・中性の、中性子になったんだった。

チューセーシくんは、もう離さないわ、とばかりに強い「強い力」の力によってヨウシくんを抱きしめる。

ぺたーっ・・・

ケンカが苦手でおっとりとした性格のチューセーシくんは、ヨウシくんと電荷がらみでいがみ合うことがない。

ヨウシくんも、どういうわけか、チューセーシくんのニュートラルな雰囲気には反発できない。

ヨウシくんとチューセーシくんがくっついた!

なんてセンセーショナルな出来事だろう。

陽子と中性子の一個ずつが隣り合い、がっちりと肩を組んで離さない、二人組の原子核がこの世界に誕生したんだ。

ヨウシくん単独のからだは、それだけですでに水素の原子核だった。

だけど、チューセーシくんと結び合って、さらに上のバージョンに昇格したわけだ。

これが、核融合の原理だよ。

さらにチューセーシくんは、陽子と結び合って原子核に組み込まれることで存在感が安定し、15分だった半減期が免除されて、長生きができるようになる。

のちの人類は、この男の子とオカマちゃんという異色の新ユニットを、「重水素原子核」と名付けた。

重水素・・・水素より重いからかな、それとも水素が重なったからかな。

とにかく、ヨウシくんもチューセーシくんも、これからは新タイプの原子核として、相棒と常に一心同体で過ごさなきゃならない。

ヨウシくんは思った。

オカマちゃんか・・・

ま、男同士よりはマシかもしれないな。

しばらくはこの状態でがまんするか。

・・・と。

だけど、すぐに思い直した。

いやいやいやいやいや、やっぱ・・・やっぱちがうわっ!

女の子がいいっ、デンシちゃんが恋しいっ!

・・・と。

なのに、気の毒なことだ。

以降、男とオカマちゃんだけの世界で50億年もがまんしなければならないとは、このときのヨウシくんには知るよしもない・・・


さて、ヨウシくんの嘆きはさておき、陽子と中性子とが核融合反応を起こし、新たに重水素原子核が生まれたんだった。

・・・と、このくだりで、賢明なきみは、ぎょぎょっ、と思っているわけだ。

な、なな、なにっ、核融合!

水素爆弾のやつじゃねーの?

そこ、しれっとスルーしちゃだめだろっ!

・・・と。

その通りなんだ。

なんとなく怖い感じの、核融合。

陽子と中性子は、それをやらかしたんだ。

そしてふたりのちょっぴりアブナイこの行為は、危ないどころじゃない効果を天体におよぼすことになる。

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