第17話・プラズマ
水素たちの大規模なシェアハウスも、天体の中央部に位置する好物件は、今やぎっしり満室。
大勢がせまい部屋に押し込められ、まるでいっせいにおしくらまんじゅうをしているような状態だ。
そんな息苦しさに、デンシちゃんはもうがまんがならなくなった。
じだんだを踏み、暴れすぎているうちに、ふと、われを忘れたんだろうね。
ヨウシくんと結びついた手を、つい、離してしまった。
ぱっ・・・
そしてそのまま、ものすごい剣幕で出ていってしまったんだ。
もういやっ、さよなら、ピューッ・・・って感じだ。
突然の別れだった。
ヨウシくんは、彼女を引きとめることができなかった。
飛び出していったデンシちゃんは、もう戻ってはこない。
ふたりは、確かに引かれ合っていた。
+と-の電荷の・・・そう、強いクーロン力で。
だけど、悪化した環境が、ふたりを引き裂いたんだ。
さよなら、デンシちゃん・・・
ヨウシくんは途方に暮れた。
向こう三軒両隣をのぞいてみると、どこのお宅も夫婦ゲンカをおっぱじめている。
そして電子たちは、家の主ともいうべき原子核(陽子)を置き去りにし、激しい勢いで出ていってしまう。
押しつぶされそうな圧迫感に、小さな身は耐えきれないようだ。
こうして、どこの家庭も・・・いや、どこの原子もバラバラになっていく。
ひとりぼっちに残された陽子たちは、これではやりきれない。
彼らもまた荒れはじめる。
電子と陽子は離ればなれになり、お互いの場所で、それぞれに荒れ狂う。
これを、プラズマ状態という。
プラズマ・・・はて、前にも出てきたような・・・
覚えているかな?
それはちょうど、ヨウシくんがデンシちゃんと出会う前に、宇宙中で起きていた現象だ。
ヨウシくんはひとりで旅をし、デンシちゃんたちはあちこちで暴れまわって、光を通せんぼしていたんだった。
宇宙が晴れ上がる前のことだ。
あの状態が再び、天体の内部で起きている。
中心部一点への温度と圧力の集中は、まるで宇宙の時間を巻き戻してしまったかのようだ。
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