第16話・凝集
水素たちは、集まりすぎたようだ。
最初のうちはぼんやりと、ゆるやかな結びつきだった。
だけどやがてそれはふくれあがって、たちまちのうちに巨大化、そして超巨大化してしまった。
超巨大化すると、万有引力の効果が絶大になる。
水素分子はお互いに引き寄せ合い、密集していく。
ついに天体が形成される。
その中身はすし詰め状態となり、水素ひとりひとりが圧迫されると同時に、集団がひとかたまりとして圧縮されていく。
要するに、ころんころんのまん丸に固められていく。
そうするうちに、天体自体の凝集がはじまった。
むぎゅぎゅっ・・・!
水素分子が集中しすぎた天体の中心部は、すでに相当の質量がせめぎ合い、高い温度と圧力になっている。
物質は、密度が高まると、発熱する性質があるんだ。
よく例えに出されるのが、空気を充填させた自転車のタイヤだ。
空気を入れて、入れて、ふくらんだタイヤの中にさらに空気を入れていくと、タイヤがじんわりとあったかくなるのは、経験で知っているよね?
あれは、タイヤの中の空気が圧縮されて、つまり小さな空間にミチミチと詰め込まれて、逃げ場を失った空気中の原子が興奮して暴れまわっているからなんだ。
もっと身近な例を出せば、お口いっぱいに空気を含んで、プーッ、とふくらませてごらん。
アタマが赤く、熱くなってくるだろ?(あれはちがうか)
ま、そんな感じなんだ。
デンシちゃんたち女子は、お隣さんとのすき間がなくなって、生活空間が手ぜまになり、プーッ、とふくれっ面になっているんだった。
こうして電子たちは、暴れまわりはじめたんだ。
小さな世界でそんなこんなが起こっている間にも、天体はギューギューと収縮をつづけ、構成物の集中を加速させていく。
密度が高まった中心部は、さらに強い万有引力を手に入れ、外寄りの層にいる水素分子たちを中に引き寄せてしまう。
くだいて言えば、外側表面の水素たちが、内側に向かってのしかかっていく、という構図だ。
のしかかられた水素たちは、行き詰まってミシミシに圧迫されていく。
地下のせまいバーゲンコーナーがごった返していて、みんな興奮して汗まみれになっているのに、さらにそこに向かって、下りエスカレーターがどんどんと新しいお客さんを送り込み、押すな押すなの状態に詰め込んでいく、という感じかな。
それが天体の中心部の密集、高温、高圧のメカニズムだ。
高圧となった巨大な質量はさらなる強力な引力をつくりだし、強力な引力はさらなる水素を呼び込んで高密度をつくりだし、高密度の圧力はさらなる熱をつくりだし・・・と延々とつながるスパイラル。
そしてその上昇スパイラルが一線を越えると、天体内部でなにが起こるか?
あの、粒子たちがバラバラに独立していた頃の宇宙の環境を・・・高温で高圧だった当時の状況を、天体が自前で再現してしまうんだ。
ビッグバン以降、粒子たちはせまい宇宙の高密度から逃れて、広く、薄く、涼しくひろがりつづけてきた。
だけど今度は逆に、せまい空間の高密度帯に向かって集中しつづけている。
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