第15話・発熱

宇宙空間を漂う水素原子たちが集まり、お互いに引かれ合い、結び合い、今や大大大集団となって、巨大なひとかたまりに成長した。

水素分子による、いわゆる天体がつくられたんだ。

ヨウシくんは、ひと安心だ。

ひと仕事を終えて風呂につかるおっさんの心持ちで、ぬるま湯のような分子集団の中にぷかぷかと身をゆだねている。

しみじみと心がほどけていく。

なんと立派なことを成しとげたんだろう。

それは、実に大仕事だった。

だって、星をつくったんだもの。

ぼくら水素って、すごい。

これでとりあえず店じまいだ。

少しのんびりしよう・・・

ところが、そんなヨウシくんの態度を見て、デンシちゃんが怒りはじめた。

こんなんじゃなか、うちのひとはこんなんじゃなかもん・・・と、西郷さんの銅像を見たイトさん(未亡人)のように、じだんだを踏んでいるではないの。

なんだよ、落ち着けよ、ぼくらはすごいことをやってのけたんだぜ・・・とヨウシくんはのんき顔。

だけど、デンシちゃんの怒り方が尋常じゃないんだな。

あまりにも猛烈な勢いで暴れるので、押しとどめることもできない。

どうしたんだよ、まったくデンシちゃんときたら。

ん?まてよ・・・

ヨウシくんはふと思い出す。

ふたりが結び合う前、ヨウシくんがひとりぼっちで旅をしていた頃の、電子たちのやんちゃっぷりを。

宇宙は爆発の衝撃であっちっちに熱せられていて、ぐつぐつと圧力もすごくて、彼女たちはその環境にイライラして暴れまわっていたっけ。

イライラして暴れまわるのは女子のいつものことだけど、あの姿は普通じゃなかった。

今のデンシちゃんののたうちまわりっぷりは、あのときと似ている。

当時の世界を思い出し、ヨウシくんは背中につめたいものを感じる。

なにか周りで異変が起こっているみたいだ。

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