第14話・天体
ヨウシくんとデンシちゃんの水素原子は、仲間を得た。
そして、水素分子となった。
それは、男子ふたりと女子ふたりがシェアハウスに一緒に住むようなものだ。
その環境は、ヨウシくんたちにまた質量を与える。
すなわち、少し強めの万有引力を。
ヨウシくんたちは、周囲を漂う独立の水素原子たちに呼びかける。
みんなも一緒に集まらないか?
軽い水素原子たちは、少し重くなったヨウシくんたちの水素分子ハウスに引き寄せられてくる。
そして近づき合っては、それぞれに意気投合し、結合していく。
文字通りに、水素原子たちは結び合う。
レゴブロックのように。
水素分子というシェアハウスの定員は、水素原子二組でいっぱいになるようだ。
それら一個いっこのパーツがお城の石垣のようにもこもこと組み上がり、水素分子の大きな集団ができていく。
集団が大きくなると、さらに引き込まれる仲間の数も増えて、成長が加速する。
見渡してみると、あっちでもこっちでも、同様のプロセスをへた大きなかたまりができているようだ。
大きなかたまり同士は、お互いに強く引き合い、ダイナミックにぶつかり合う。
そして、もっと大きなひとつになる。
大小、合体のくり返しだ。
集団の巨大化と、引力の加速的強化、新規メンバーの参入、それにともなう質量の増大、さらなる引力の強化・・・
プロセスの規模はますますひろがり、集団はたちまち天体ほどもの大きさにふくらんでいく。
やがて水素分子は、コロリと一団にまとまった。
それは、はっきりと目に見えるほどの形になっている。
ヨウシくんは思った。
なんてことだ。
小さな小さなぼくら水素は、大きな大きなひとつになったぞ。
ぼくらは星をつくったんだ!
そりゃ、ふわふわして、つかみどころがなくて、はなはだ心もとない星だけど・・・
デンシちゃんは思った。
だけど、見て。
なんにもない宇宙で、わたしたちはわたしたちのからだひとつで、ものをつくったのよ。
この世でただひとつのものを。
形ある物体を・・・
なるほど、確かに信じられないことだ。
ふたりとも、すごいことをしたものだ。
この物語の当初の、なんにもない世界を思い出してごらんよ。
なんにもなんにも、なんにもなかった。
そこから、こんなにも大きなものをつくるまでに、世界は進んできたんだ。
だけどヨウシくん、デンシちゃん、きみたちの仕事はまだまだこれからだ。
きみたちはここから先、さまざまなものをつくっていくんだよ。
これはぜんぜん、はじまりにすぎない。
とはいえ、この原始星、ファースト・スターができるまでに、宇宙誕生から何億年もの歳月が流れている。
まったく水素たちときたら、がんばったものだ。
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