第12話・ふたつの水素原子

ヨウシくんとデンシちゃんの水素原子は、ようやく隣の水素原子と触れ合えそうなところまで近づいた。

ヨウシくんは、お隣さんカップルと顔を見合わせる。

その水素原子もまた、陽子が電子をくるくるとまわす形でユニットを形成している。

見れば見るほど、自分たちとそっくりだ。

どうやら、この宇宙中の水素原子が、まったく同じ姿かたちをしているらしい。

この世界でついに物質が形づくられたのはいいけど、それはたった一種類の、一様なレゴブロック片だったんだ。

どれもこれも、全部おんなじ。

多様性がまるでない。

このただ一種類のパーツが、宇宙にあまねく散らばっている。

もう少しいろんなバリエーションがあれば、この世界はとても多彩な、そしてとても豊かなものになるのに。

だけど神様は、このシンプル極まるただひとつの形、すなわち水素原子しか、世界にお与えくださらなかったらしい。

ふとヨウシくんは、チューセーシ(中性子)くんのことを思い出してみる。

あのタイプのやつはどこにいってしまったんだろう・・・?

実は、彼ら(オカマちゃんだから、彼女ら、かな?)中性子は、ビッグバン直後に生まれたはいいけど、ひとりぼっちだと15分という短い時間でオカマちゃんから男の子に・・・つまり中性子から陽子に変身してしまうんだ。

もう少し正確には、「半減期」というんだけど、中性子は15分で半分の数に減ってしまう。

つまり、十六個の中性子は、15分たつと八個に、30分たつと四個に、45分たつと二個に、そして計算上は、1時間でひとりぼっちになってしまうんだ。

そして、中性子が減った分、陽子が増えるというわけだ。

なのでこの頃には、中性子の単体は、もうほとんどが宇宙中からいなくなっていた。

ヨウシくんは、ため息をつく。

そして、むだと知りつつ想い描いてみる。

陽子と、電子と、そして中性子がいる世界を。

あのチューセーシくんがいてくれたら、この世界はもっと色どり豊かなものになるのに・・・

だけど、いやいや、と首を振り、考え直す。

ぼくらだけでやるしかない・・・と。

そうだよ、ヨウシくん、スヌーピーも言っているよ。

「人生は配られたカードで勝負するっきゃないのさ」と。

もちろん、この時代にはまだスヌーピーは生まれていないんだけどね。

ヨウシくんは、自分たちの使命をしっかりと自覚した。

今いるぼくらだけで、この世界をもっとたのしく、にぎやかなものにするんだ。

みんなで力を合わせれば、1+1=3以上になるかもしれない・・・と。

水素原子たちは、いよいよ接近し合う。

そしてヨウシくんとデンシちゃんの水素原子は、ついに隣の水素原子と触れ合った。

ぴと・・・ぽわわわわん・・・

すると、どうだろう。

ふたつの水素原子が、ひとつになった。

しかも、お互いに独立しながら。

また新しいつながり方だ。

ヨウシくんは思った。

これは、ふたつのレゴブロックがひとつに噛み合わさったようだ・・・と。

だけどもちろん、この頃にはまだレゴブロックは発明されていないんだけどね。

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