第11話・接近
質量を持つもの同士は、お互いに引き合う・・・
万有引力の法則を正しく守り、ヨウシくんとデンシちゃんの水素原子は、ゆっくりと、本当にゆっくりと、いちばん近くのお隣の水素原子に寄っていく。
あたりを見まわしてみると、できたばかりの水素原子たちもまた、なんとなくこっちに寄ってきてくれている気がする。
自分たちだけじゃなく、誰もが隣のものに近づきたがっているようだ。
だけど、水素原子一個あたりの質量はあまりにも小さすぎて、なかなか接近するまでの力にはなれない。
それでもあきらめない。
万有引力は、発生源(質量の持ち主)から遠ざかるにつれて弱くなってはいくものの、どこまでもどこまでも、宇宙の果てまでも、そしてどれだけ質量の小さなものにまでも、必ず作用するんだ。
何年も・・・何十年も・・・何百年も・・・何千年も・・・何万年も・・・ヨウシくんたちはがまんした。
待って、待って、待つうちに、じょじょにお互いの顔が見えそうなところにまで近づいてきた。
今や周りには、たくさんの水素原子がいる。
透明極まる宇宙空間が、このあたりだけぼんやりとにごって見える。
水素のコミューンが形成されつつある、とはっきりわかる。
その集まりは、ごく薄いガスのようなものだ。
だけどはっきりと、水素の集団ができてきたんだ。
さらに参加メンバーが増え、近づき合ってお互いの間隔がせばまると、集団はもくもくと雲のように濃密になっていく。
これは、星ほどもの大きさ、という規模の話だよ。
なにしろこの宇宙で、物質といったら水素の他にはほとんどなにもないものだから、万有引力が働く以上、水素の集まりはひたすら多くの水素を集団内に吸収し、巨大化していくんだ。
こうして、目に見えて立体的な水素の大集団ができた。
大勢で集まって大集団になるのがどういう意味を持つか、考えてみて。
それはつまり、集団全体の質量が増える、ということだ。
水素一個いっこ同士の距離も近く、集団全体の質量が大きくなったことで、万有引力の作用は加速する。
その効果は、外から孤立した水素原子をさらに取り込むと同時に、集団内部でも原子同士を接近させつづける。
ガス状だった集まりは、時を追うごとに密度を増していく。
中心部では、もう隣と触れ合わんばかりの密集状態になっている。
もわもわとしていた外縁部もはっきりとした形になり、遠目には「天体」と映るほどだ。
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