第10話・万有引力の法則・2

空気抵抗などの些末な問題を無視して、単純にマンガチックにイメージしてみよう。

高い山の山頂から、大砲を水平に向けて撃ち込むと、砲弾は地平線に向けてまっすぐに飛んでいき、やがて地上に落ちる。

地球が持つ引力のせいだ。

もっと強い力で撃ち込むと、もっと遠くに落ちる。

もっともっと強い力で撃ち込むと、もっともっと遠くに落ちる。

もっともっともっと強い力で撃ち込む。

もっともっともっともっと強い力で撃ち込む。

すると、もっともっともっともっと・・・もっと遠くまで飛ばすことができる。

地平線の近くまで、だ。

が、いずれは砲弾は地上に落ちる。

しかし!もっともっと、もー・・・っと強い力で撃ち込んだら、どうだろう?

砲弾は、高度を保ったまま飛びつづける。

飛びつづけ、砲手が見る地平線をやり過ごし、やがて地球を一周し、砲手の後ろに迫り、ついには彼の後頭部にぶつかるかもしれない。

・・・いや、まてよ、ここは精密に計算をするんだ。

ニュートンさんは、さらに思考実験を進める。

さっきの要領で、考えうるかぎりの最大の強い力で大砲を撃ち込んでみる。

ドッカーン・・・

発射された砲弾は、まっすぐ水平に飛んでいく。

が、地球は丸い。

まっすぐに飛びつづければ、その軌道は、地上から上空へとそれていくはずだ。

いや、もっと視点を大きく取り、軌道が地球から離れていく、というところまでイメージしてみる。

ちょっと言いづらいが・・・砲弾を天上界にまで撃ち込むのだ。

砲弾は、水平に飛んだ後、地球を離れ、遠く遠く・・・ある意味、高く高く上昇する。

それでも、かなり離れたところで、砲弾は地球の引力に捕らえられるだろう。

砲弾は、ゆるやかに曲線を描いて落ちてくる。

しかし計算上の軌道では、その落下点には地面がない。

砲弾は、地球の裏側の相当に遠いところで、地球とすれ違ってしまう。

すれ違うが、砲弾は地球の引力圏に捕らえられてるため、いずれは地上に近づいてくる。

地球上空を一周して、発射地点に戻ってきてしまうわけだ。

地上との最接近地点には、砲手の後頭部があるはずだ。

ところが、地球と砲弾の両者に「引き合う力」が働いていると仮定すると、ようやく砲弾が戻ってきたとき、そこに砲手の頭はない。

なぜなら、地球もまた砲弾の質量に引っぱられるために、お互いの動きにタイムラグが生じて、地球はさっきとは別の場所(裏側寄り)に移動しているからだ。

すれ違う!

かくて砲弾は、地球を離れ、戻り、すれ違い、またまた離れては戻って、地球とは延々とすれ違いをくり返すことになる。

はたっ!

・・・これって、太陽をめぐる惑星の周回運動にそっくりじゃね?

ニュートンさんはひらめいたんだ。

ボールなどを上空に投げ上げたときに描かれる放物線の速度計算によれば、投げたときの初速度が最も速く、ボールの最高到達点で最もゆっくりになり(真上に投げ上げるなら、とまる、という言い方もできる)、落下の開始から再びスピードを上げて、地上に戻ってきた瞬間に初速度と等しくなる。

つまり、水平に撃ち込んだ砲弾は、地球を半周した裏側で減速しながら最高度に達し、加速しながらもう半周して戻ってくる。

戻りきって発射地点をスルーする瞬間には、再び発射速度の猛スピードに達しているので、この周回運動には終わりがない。

これは、天体の運動のメカニズムそのものだ。

鋭いぜ、ニュートンさん。

こうして、ひとつの法則が導き出された。

数式にまで落とし込める、極めて正確な自然界の約束ごとだ。

「逆二乗の法則」というんだけど、ざっくり表現すれば、「質量を持つふたつの物体は常に引っぱり合っており、質量が大きなものほど強い引力で他者に働きかけ、距離が近いほどその効果は大きい」というものだ。

質量があるもの同士は、お互いに引き寄せ合う。

別の言い方をすれば、それらはお互いに落ち合うということだ。

リンゴは地球に向かって落ちたけど、一方の地球もまたリンゴに向かって落ちたわけだ。

同様に、星と星とは、お互いにすれ違いながら、落ち合っているんだ。

そして、先の砲弾の例に見るように、それらの軌道は楕円形(終わりのない放物線とも言える)になる。

ニュートンさんが「万有引力の法則」を確立した瞬間だよ。

この、くだいて言えば「お互い引っぱり合いの法則」は、太陽をめぐる惑星の軌道の揺らめきから「天王星」「海王星」の存在が予言され、発見されたことからも立証された。

「星ぼしがあのあたりに向かって引っぱられてるんだから、そこには未知の星があるはずだ」というわけだ。

そんな証拠も含め、ニュートンさんの計算のすごい精度は、当時のひとびとを納得させるに十分なものだった。

こうして、自然界のルールは書きかえられた。

ニュートンさんの万有引力の法則は、リンゴが落ちることを説明したのがすごいんじゃない。

その着想が、地上界と天上界(神様の世界)のルールを統一したから、すごいんだ。


とにかく、質量のあるもの同士はお互いに引き寄せ合う、というルールが宇宙には存在する、とだけ覚えておいてほしい。

そして、少し大きめの質量を得たヨウシくんとデンシちゃん、すなわち水素原子は、同じ仲間である水素原子たちを引き寄せつつ、また引き寄せられもするんだった。

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