第8話・原子の大きさ

さて、スピード感と、それにともなう構造の問題はクリアした。

だけどもうひとつ、スケール感の問題が残っている。

次はそこをほじくっていこう。

素粒子の世界の登場人物たちはとても小さくて、われわれ「立って半畳、寝て一畳」の人類には、その大きさを具体的、視覚的にイメージするのは難しい。

そこで、原子核と電子とを身近なものに置き換えてみる。

ここでクイズだよ。

電子が原子核の周りをくるくるとまわっている。

原子核(水素原子だから、単独の陽子)の大きさが、例えばパチンコ玉くらいだとすると、そこを中心にまわる電子の周回軌道(回転の直径)はどれくらいだと思う?

太ったおかあちゃんの指輪くらい?

それとも、親指と人差し指とでつくった「OK」の輪っかくらいかな?

ブブーッ。

どっちのイメージも、小さすぎる。

じゃ、CDのディスクくらい?(例えが古くてごめん)

ブブーッ、それでも小さすぎるんだ。

LPレコードくらい?(いちいち古くてごめん)

いやいや、まだまだ小さい。

じゃ、フラフープくらい?(どんどん古くなってごめん)

それでも全然小さい。

ぜんっぜん、だ。

答えを言おうか。

原子の中心にある原子核が、指先でつまめるパチンコ玉くらいのサイズだとすると、その周囲をまわる電子の回転軌道は、なんと甲子園球場くらいもの直径になるんだ。

めっちゃでかーっ!

原子モデルの画づら、ぜんぜんちゃうやん~・・・と関西弁でツッコミたくなるだろ。

クローン力、ごっつすごいやん~、と。

そうなんだ、電子は、原子核からはるかに隔絶された遠く遠く、とお~っくをめぐっているんだ。

そして、この電子の軌道の広さこそが、原子一個分の直径、ということになる。

実際には、原子の大きさ(つまり、電子の回転軌道の直径)は、1ミリの1千万分の1くらいだ。

そして原子の中心に位置する原子核の大きさは、さらにその数万分の1くらいで、外周をまわる電子は、さらにさらにその数千~数万分の1くらい。

ちなみに電子の質量は、水素原子核である陽子の1/1800しかない。

うそうそマジか、そのサイズ感、こっちの聞きちがえ?・・・というひとのために、もう一度まとめてみるよ。

水素原子を構成しているのは、たったふたつの粒子、原子核である陽子一個と、その周囲をめぐる電子一個だけだ。

そいつを拡大すると、甲子園球場のマウンド上にあるパチンコ玉くらいの原子核を中心に、髪の毛の先ほどの電子が、球場の外周道路くらいの軌道でまわっているんだ。

ということは、原子の中身はスッカスカ!

おいおい、中身は空気だけか?というくらいに空っぽなんだけど、原子内部は空気も入れないくらいに小さな空間なので(空気もまた原子からできていることを忘れないで!)、要するに、正真正銘のスッカスカ、なんっにも入っていないリアルな空っぽ、なんだった。

が、スッカスカなんだけど、いちばん外側を電子が一秒間に数十京回もまわっている計算なので、その幻影ともいうべき姿によって、水素原子全体はシャボン玉のように大きな球に見える、というわけだ。

パチンコ玉の周りを毛の先ほどのケシ粒がぐるぐるまわって形づくられた甲子園球場大のシャボン玉。

これが、拡大された水素原子の姿だ。

さらにややこしいことに、原子核を周回する電子の軌道は計算上、正円ではなくギザギザに波打っている、というんだな。

これだと、シャボン玉じゃなく、まるで中空になったコンペイトウのイメージだ。

なので電子は、周回しているというよりも、「原子核の周囲に、ある分布をもって存在している」という状態にあり、「雲」という言い方をされることさえある。

結局、電子は厳密な「粒子」という定義ではなく、「空間的な大きさを持たない」で「エネルギーを持った点」として解釈される。

点にして、波。

体積ナシの、ゼロ次元の存在。

そこには、エネルギーだけがある。

そしてエネルギーは質量として扱われるので(のちに説明のE=mc2)、さっき示した質量比になる、というわけなんだった。

なんだか最後は難しい話になっちゃったかな、ごめん。

それにしても原子って、つまり物質を構成する最小単位のパーツって、実在するんだかしないんだか、よくわからなくなってくるよね。

「この世の一切は幻想だった」なんて哲学的思想の、物理学的裏打ちだ。

ここまでくると、もはや手で触れようにない観念の世界。

だけどこれが現実、掛け値なしの実像なんだな。

とにかく、この世界は、まるきりスカスカのものが集まって構成されているらしい。

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