第7話・原子の構造

陽子一個と電子一個とで構成される水素原子は、とてもシンプルでベーシックな構造をしている。

あらゆる原子のまさに出発点となる、そのつくりを説明しておこう。

新キャラとして登場した電子は、素粒子だ。

陽子を構成するクォークと同様に、ビッグバンのてんやわんやの中で生成された。

クォーク三つでできている陽子や中性子はとても小さいけど、電子はもっともっとケタ違いに小さい。

だけどヨウシくんとデンシちゃんの相性でわかる通り、陽子と電子は電荷が逆向きに等しいので、ちょうど力関係が釣り合っている。

+1と-1という、からだの大きさとは関係のない、いわば「力の強さ」の数値の一致があるために、一対一でつき合うことができるんだ。

電荷は、プラス同士やマイナス同士の場合ではお互いが反発し合い、逆電荷の場合ではお互いに引き合う、ということは説明したよね。

この力は、磁力とはちょっと違っていて、難しい言葉で言うと、電磁気力=「クーロン力」という。

クーロン力によって、電子は陽子に引きつけられ、捕らえられるんだ。

両者は電荷の強さが同じなので、「お互いに引きつけ合う」とも表現できるけど、質量で比べると陽子の方がずいぶんと大きいので、ここは「電子が引きつけられる」という言い方をさせてもらう。

引きつけられた電子は、陽子(水素原子核でもある)の周囲をぐるぐるとまわりはじめる。

水素原子の誕生、というわけだ。

きみは、「原子モデル」なんていう、原子の内部構造を表す概念図を見たことがあるかもしれない。

月が地球の周りをまわっているような、とさっき表現した形のものだ。

中央の大きな球の部分が原子核で、周囲にめぐらせた輪っか上をぐるぐると電子がまわっている。

ところがこの画づらは、自分で言っておいてなんだけど、ある意味ではまるで間違っているんだ。

なるほど、図は、原子のパーツの配置を単純化して示し、その構造を記号的にうまく説明している。

だけど、小生のように描写を生業とする立場からしてみたら、残念ながら、そのデッサンはぜんぜん間違ってる!と言わざるをえない。

特にスピード感、それにスケール感が、まったく物足りない。

まずはスピード感の問題だ。

そもそも電子は、あんなウイーンウイーンみたいなのんびりな雰囲気で回転してはいない。

電子の運動は、「光かっ?」ってくらいの超絶スピードなんだ。

だから、なんてーか、もっとこう・・・ぐあーっ、くるくるくるくるるるるー・・・って、ものっすごい速さでまわる感じに表現しなきゃダメだと思う。

電子の姿は、速すぎて目にもとまらないし、「今ここにいる」という現在地点すら絶対に特定することはできないし、要するに観測ができない。

このことは、「不確定性原理」という難しい理論で証明されている。

原子核の周囲をめぐる電子は、残像ですらとらえることができない、オバケみたいな存在なんだ。

だけどもしも見えるとしたら(小生がデッサンするとしたら)、電子の姿は糸を引いて連続的になり、その外観は毛糸玉を巻いた球体のようになるはずだ。

つまり、電子の軌道を描くときは、土星の輪のように単線ではなく、連続線を総合したシャボン玉のように立体化するべきなんだ。

このシャボン玉の表面を、電子は捕捉できないほどのスピードでビュンビュンぐるぐると移動しつづけ、決してシッポをつかませない。

これは「電子は、軌道上のどこにでもいながら、どこにもいない」という、摩訶不思議な真実を表している。

そしてこの軌道の直径こそが、イコール原子の大きさとなる。

さて、ここまで話を聞きながらきみは、はて、と違和感を感じているはずだ。

電荷だ、くっつき合いだ、回転だ、と言うけど、おかしな話じゃないか、と。

そもそも、くっつく、と、周囲を回転する、とは両立しない。

そう、本来なら陽子と電子はプラスとマイナスの逆電荷で引き寄せ合うんだから、磁石のS極とN極のようにピッタリとくっついてしまうはずだよね。

だけどそうじゃなく、電子は陽子(原子核)の周りをくるくるとまわっている。

つかず離れずという、なんでそんな関係性になるのか?というわけだ。

それは、電子があまりにも速いスピードで飛ぶからなんだ。

原子核の引力圏に取り込まれながら、電子はその呪縛から逃れようとするかのごとくに全力で飛びつづけ、結果、原子核の周囲をまわることになる。

だけど、その引力圏からは決して外には出られないんだな。

かといって、電子が運動をとめることもない。

飛んでも飛んでも逃げられない結果、電子は引力源である原子核を中心に周回しつづけ、一定の距離に固定される形になる。

これはよく、ハンマー投げに例えられるよ。

電子をハンマー投げの鉄球とすると、クーロン力(引力)は、鉄球を結わえつけるヒモに置き換えることができる。

電子は、原子核の引力圏につなぎとめられつつ、回転のスピードで外へ外へと逃げようとするので、その求心力と遠心力は相殺されて、一定のサークル内に留め置かれることになるんだ。

これは、原子核と電子の力が拮抗して安定している、という言い方もできる。

逃げようとするどころか、運動をしつづけたい電子にとっては、原子核の周囲のこのあたりはとても居心地がいいんだろうね。

泰然自若の原子核と、おてんばな電子の相性があまりにもいいために、こうした特別な関係が許されるんだな。

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