第57回Twitter300字ss「演じる」

草群 鶏

ふたりなら

 影がさす。見上げたすぐそばに、細面の整った顔立ち。左目のほうが少し小さく、不思議と愛嬌がある。

 父の思惑は明らかだ。家の繁栄、すぐれた世継ぎ。一人娘に悪い虫などもってのほか。そうしてやってきたのが「彼」だった。見え透いたやり口に、憎しみすら覚える。

 世継ぎなど残さない。こんな家終わればいい。言うなりになるくらいなら、私は一生ひとりでいい。

 そう思っていたのに。

 首筋に手を添えて、促すように横たわる。熱い息、淡く湿った皮膚、その下の躍動。これが、アンドロイドだなんて。

「ずっと一緒にいてくれる?」

 口移しで与えたコードで、コマンドを書き換えた。あとは世界を欺くだけ。一人と一体を主演に迎えて、幕が上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第57回Twitter300字ss「演じる」 草群 鶏 @emily0420

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ