2016年【隼人】28 隼人が集中できること
遥のことで相談に乗ってくれと、隼人が頼むと、銀河に場所と時間を指定された。
銀河は自らを晴れ男だと自称している。
女は雨で濡らすもんじゃない、俺が濡らす。という下ネタを名言にしただけのことはある。
時間通りに神社の石階段に来た時には、雨は嘘のように止んでいた。
水はけのいい神社の石階段は乾いていた。
そこに座って毛づくろいをしている猫のみやむの横で、最低の夜の出来事を話していく。
「別に嫌いになる必要なんて、ないと思うけど」
「え? それってどういうことだ」
みやむと遊びながら喋っていた。
だから、有沢にしたのとはちがう話をしたのかと、自らを疑う。
じゃらしを模した猫用のおもちゃを手放すと、みやむはそれに飛びつく。
隼人も銀河が見出した希望を捕まえるべく、本腰を入れて話に耳を傾ける。
「ようするに、遥が誰かとイチャつくのが耐えられないって話だろ。でもよ、どんなに好きな相手でも、そいつを忘れる瞬間ってのは、あるはずだ。なんかに夢中になってるときは、ほかのことを考えないですむだろ?」
いまのみやむのように、と。
隼人は心の中で付け加えてみた。
おもちゃを追いかけているときのみやむは、ものすごい集中力を発揮する。
走り屋が本腰を入れて峠を攻めて、速さを追求しているときの集中力に近いものが、そこにはある。
隼人にとってそこまで集中できるもので、解答が浮かぶ。
夢、すなわちUM――
「つまり、セックスしろってことだな」
「え?」
いま、なんと言った。
聞き間違いかな。理解ができない結論に、隼人は戸惑う。
みやむも抗議のように「みゃあみゃあ」うるさい。
「童貞の隼人には、よくわからかったかな。なんだったら、このあとの俺のデートについてくるか? 二人相手にするの大変だから、俺は4Pでも構わんぞ」
このあと、女性二人を相手にセックスをする予定が入っているのですね。
隼人は、今日のオナニーのズリネタすら、まだ決めていない。
生きている次元がちがいすぎる。
銀河の意見は参考にならないのかもしれない。
「まぁ、俺も昔はセフレとの最中に、本命の相手を思い出して、申し訳ない気持ちになってたな。だから、あんまり偉そうなことは言えないかもしれないけど。あれは、セフレにも本命にも失礼なセックスだった。うん」
「どうでもいいわ。お前の後悔なんかしるか」
「ひどいね。好意から相談に乗ってる相手に対して、そういうこというか? まぁ、正面からぶつかってくる、隼人のそういうところ、嫌いじゃないけどな」
銀河は人懐っこい笑顔を見せた。
彼の電話が鳴ると、「失礼」とひとこと添えてから、銀河は電話を確認する。
「もしかして、彼女『たち』が迎えにきてくれたの?」
「いや、大丈夫だ。こっちの話のほうが重要だから、もし連絡がきても少し待っておいてもらうつもりだ」
つまり、今日遊ぶ女以外から連絡が来ただけなのだろう。
それを、あたかも隼人を優先させていますという態度をとるのが、銀河の言葉巧みなところだ。
しかも、別に嘘をついている訳ではない。誰も傷つけていない。
「だいたいさ、なんもかんも中途半端なんだよ、隼人と遥は。ごちゃごちゃ考えずに、いっそのこと愛を形にしてみろよ。押し倒さない理由が、俺にはわからないぐらいだ」
「いや、無理だって」
「なんでだ? 本当にわからないんだ。教えてくれないか」
「今後のナンパの参考には、ならないと思うぞ」
「そのために知りたいわけじゃない。本当に好奇心なんだ。だって、お前がいままで遥のためにしてきたことを考えたら、同意でセックスできるだろ? たとえば俺とお前の魂とか心みたいなものが入れ替わったとする。そしたら、挿入まで一時間も必要ないぞ」
「いつもは冷静なのに、いきなりわけのわからん前提を持ち出して、なに言ってんだ?」
「たしかに、わけがわからないことを言ってるかもしれない。でも、それだけ隼人の行動が理解に苦しむんだ。とにかく、一回やってみるべきだろ
――て、いたい、いたい。なんで、いきなり噛むんだ、みやむ?」
熱が入り始めた銀河の足首に、みやむが甘噛み攻撃をする。
もしかすると、日本語を理解して「そんな簡単にセックスは、ぼくでもしないよ」と、反論しているのかもしれない。
オレもお前と同意見だと心の中で思いながら、隼人はみやむを抱っこする。
銀河には甘噛みするくせに、隼人の手はぺろぺろと舐めてくれる。
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