2016年【隼人】14 地元の湖とUMAの伝説

「いや、でもオレの射撃では、目的の物は手に入らなかったですけどね」


「生意気なこと言わないでよ。ペアリングが一番値が張るものだったんだからね」


「あれ? 一番点数が高かったのは、一眼レフカメラだったはずじゃ?」


 記憶違いではないはずだ。

 交換できる得点がたまっていたのならば、迷わずカメラを選んでいた。


「これは、私の私物だったのよ」


 言いながら、一眼レフカメラを部長は取り出した。

 景品棚に飾られていたのは、箱だけだったのでわからなかったが、思っていた以上に大きい。むしろ、でかすぎる。もしかしたら、望遠レンズを後付けしているのかもしれない。


「あー、いいなぁ。絶対、遥にやったら喜んでたろうな」


「私の『計算』をこえた点数を取れていたら、入手できていたのにね」


「つまり、私物をとられないように点数を高めに設定してたってことですか。で、オレはその想定を越えられなかった、と」


「気にすることはないわよ。別に普通のことだからね。この世界線マルチバースで起こる大抵のことは『計算』ができるようになってるの」


世界線マルチバースだか、計算とか、よくわかんない単語がポンポン出てますけど、ようは『勘』ってことですよね?」


「信じられる下地が、いまのあなたにできていないから、詳しい説明はしないでおくわ。ただ、勘のように不確かなものではないというのを証明するためにも、次に起こることを『計算』してあげましょうかね」


 部長は目を閉じた。

 次に開いたときに、どこかつまらなさそうに笑みを浮かべた。


「どうやら、また呼び出しの放送があるみたいね」


 隼人がリアクションする間もなく、校内各地のスピーカーが、ぶつっと音を出した。


『二年三組の浅倉隼人! すぐに職員室に来い! 浅倉隼人! きこえているだろう、職員室に来い! 以上だ! とにかく、こい!』


 スピーカーから唾が飛び散るのではないかと身構えるほどに、荒々しい校内放送だった。

 名指しで呼ばれていることよりも、それを言い当てた人が傍にいることに、ざらっとしたものを感じてしまう。


「偶然だとしても、見事すぎるタイミングですね」


「ふーん、そういう態度をとるのね。まぁ、構わないわ。それよりも、呼び出しには応じないつもりよね?」


「もちろん。わざわざ怒られに行くほど、真面目に生きてはいませんからね。だいたい、オレが不良に追われてることを知ってるくせに、教師どもはなんもしてくれなかった。なのに、こんなときだけうるせぇんだよ。マジで能無しのハゲは死ね」


「なるほどね。でも、この判断を下したことで、どのような未来に進むかわかってるのかしら?」


「わかってますよ。先生に怒られずにすむ。でしょ?」


 刹那的な回答をしたからか、部長にクスリと笑われてしまった。


「よく考えてごらんなさい。職員室には、いまごろあなたを狙ってた不良の何人かが逃げ切れずに集められてるはずよ。追い詰められた連中は、あなたがいないのを利用して、不都合なものを全部、あなたのせいにするでしょうね」


「丁寧に教えてくれて、ありがとうございます。でも、それを聞いてオレはどうすると思います?」


「どうもしないでしょうね。久我遥を守ってきた過去から、そういうのには慣れてるでしょうし」


 遥のことを知っている。

 それも、いじめられていたときのことを把握している。この話を掘り下げるつもりはないので、別の話題をさがす。


「そういや、屋上でなにしてたんすか?」


「湖を見張ってるの。最近の日課でね」


 屋上からだと、岩田屋中学の南部に位置する萬守湖が一望できる。湖と隣接する公園は、花見スポットとして有名だ。小学校からだと、子供の足で徒歩六〇分ということもあり、遠足で訪れるコースとなっている。

 そんな地元に深い関わりの場所にも、UMAにちなんだ都市伝説はあるのだ。


「知ってますか。萬守湖の水って、ネス湖の水質に限りなく近いらしいですよ」


「岩田屋町のサンダーバードの都市伝説に比べたらマイナーなものなのに、よく知ってるわね。UMAに興味があるのかしら?」


「いえ、別に。そういうわけじゃないですけど」


 反射的に嘘をついた。

 初対面の相手に、存在があやふやなUMAに関して肯定的だと語るのは、よしたほうがいい。

 遥がイジメられる原因がそこにあったのは、傍で守ってきた隼人は痛いほど知っている。

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