2016年【隼人】06 昔からあたしは知ってるんだからね
「まいどあり。がんばってね」
「高額商品を持っていかれる危険があるのに、ずいぶんと余裕じゃないですか」
「うちが損するよりも、二人の関係に微笑ましくなっちゃったのかしらね」
二人でかき集めた八千円を遥から受け取りながら、金髪ポニテは楽しそうに笑う。
「ほらほら、ふたりの共同作業なんでしょ。あなたが入れてあげなさい」
六発の弾を受け取った遥に、隼人は拳銃を渡す。
「こんな重要なことをあたしに任せるの? やだやだやだ、プレッシャーなんだけど」
「そんなびびるなって。リラックスして、遥のタイミングで入れろ。そしたら、きっちり六発、オレが出してやるからよ」
うなずいた遥は、慣れない手つきで弾を装填していく。
一発ずつ確実に、まるで願いを込める作業のようだ。
「ねぇ、隼人。次は外野の声に惑わされないでね」
頭の中で外野の声援が再生される。
『かっこええやん、坊や。お姉さんに、アクセサリーとってくれへん。すっごいエロいことしたるで』
関西弁のAV女優にお世話になっているせいで、わかりやすく反応してしまった。
「アンタが、すごーく、本当にすごーくだけど。たまにはカッコいいのなんて、昔からあたしは知ってるんだからね」
さすが幼なじみだ。遥の前で、ここぞというときにカッコつけないでどうする。
「あの時みたいに、いっちょ、カッコいいところ見せてよ」
遥から差し出された拳銃を隼人は受け取る。
どの時のことを遥が言っているのかわからない。候補がいくつもあるせいだ。何度もカッコつけてきた。
「上等ォ」
息を吐くように、気合を口にした。
集中力を高めていく。
一度、簡単に照準を合わせる。
六発全ての弾が、ど真ん中の的を撃ち抜くイメージしか湧かない。そんな奇跡が現実となったなら、遥から褒美をもらいたい。
「なぁ、遥。一眼レフカメラが手に入ったら、おっぱい吸わせてくれない?」
「吸わせろ? 揉ませろとかじゃなくて?」
「わかった。六発全部、ど真ん中を撃ち抜いたらにしよう。それぐらいの偉業なら、いいだろ?」
右の頬をビンタされる。痛い。
ならば、代わりの案だ。
「じゃあ、なんもしないから、裸で抱き合って寝ようぜ。お願い」
左の頬はグーで殴られた。目をつかれなかったのは、遥の優しさだろう。
「バカいってんじゃないわよ。あたしら、そーいう関係じゃないじゃん」
でも、セクハラ発言をしても、この程度で済む間柄ではあるのだ。
友達以上恋人未満。
なんとも中途半端な存在だ。
これはまるで、学術的に存在している生物と、架空の生物の狭間に位置する存在に似てやしないか。
「まるでUMAみたいだな」
誰にも聞こえないように呟いてから、隼人は射撃体制に入った。
拳銃に込められた弾は、六発しかない。
欲しいものを手に入れるためには、心もとない数だ。
それでも、この挑戦権を得られたことが、いまは楽しくて仕方がなかった。
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