2016年【隼人】05 交わす言葉はなくとも

「すごい。これはもしかしたら、私の『計算』をこえるかもしれないわね」


 金髪ポニテは、驚きの言葉を発する。

 対して、遥は落ち着いたものだった。

 五回目、六回目と、得点を重ねるのを黙って見守ってくれている。


「一応、訊くけど。ここでやめるかしら?」


 集中し過ぎていて、返事に間が空く。

 すると、遥が気をきかせてくれる。


「追加で弾を購入するに決まってるでしょ」


 心地のいい断言に同意すべく、隼人は財布を遥に預ける。弾購入の支払いを任せれば、さらに集中できそうだ。


 その後も、隼人の射撃能力は光っていた。

 四千円を支払う頃には、ギャラリーの多さに苦笑いを浮かべる。これだけ人の目が集まっていれば、夜店側が商品交換時にゴネるのを防げそうだ。


 的をとりかえるインターバル中に、集中力が途切れそうになる。

 そういうときは、いったん遥の顔を見て気持ちをリフレッシュする。

 交わす言葉はなくとも、目と目で気持ちが通じ合っているように思えた。


 バン、バン、バン――


 二四発目、正念場がついにきた。

 この時点で、すでに追加で弾を購入しない限り、一眼レフカメラの入手は無理になっている。

 同時に、アクセサリーやノートパソコンといった高額商品を手に入れるのも、厳しい状況だ。

 最後の最後で、的のど真ん中を撃ち抜く必要がある。


 集中、集中するのだ。


 自分に言い聞かせる。

 射撃の構えをとってから、はと気づく。

 遥を見て気持ちを落ち着かせていれば良かった。あいつから溢れ出る癒しを力にかえるべきだった。


 だが、もう遅い。

 狙いは定め終わっている。

 あとは、引き金を――


「かっこええやん、坊や。お姉さんに、アクセサリーとってくれへん。すっごいエロいことしたるで」


 黄色い関西弁に心揺さぶられて、照準が狂う。しかも、指に力が入り、引き金をひいてしまった。

 外してしまった。


 なんと呆気ない終わりだ。

 落胆から、隼人は膝をついて崩れ落ちる。


「余計な邪魔が入ったわね」


「次って、いくら必要ですか?」


「八千円よ」


「弾は一発でいいから、まけてもらえませんかね?」


「ダメよ。雑音があったのは認めるけど、軍資金が尽きたなら帰りなさい。遊びじゃないのよ」


 隼人の遊びで、高額商品を持ってかえられれば、店側からすれば大損だ。

 金髪ポニテが安堵の表情になっているのが、悔しさをよりいっそう強くする。


「じゃあ、なにを持って帰るか選んでもらえるかしら」


 いまの得点で交換できるものでは、どれを持って帰っても、元はとれない。

 得点を全部使って、中身のわからないお楽しみ袋を複数交換してみるか。もしかしたら、七千五百円以上の価値があるかもしれない。


「では、そこにあるお楽しみ袋を――」


「待って、隼人」


「ん? なにか欲しいものあるのか? だったら、遥が選んでいいよ」


「そうじゃなくて、いま手持ちでいくら持ってるの? ほら、さっき一万円札をくずしてたでしょ。あたしのお金と合わせたら、もう一回できるんじゃない?」


 遥の財布の中には、不良から取り戻した五千円札があるはずだ。ふたりの力を合わせれば、また六発の弾を購入できる。


「でも、いいのか?」


「ダメな理由がある」


 力強い瞳で、遥は即答する。


「貸してくれても、いつ返せるかわからないんだぞ。わかってんのか。五千円って、大金なんだからな」


「すでに、あたしのために大金を使ってくれてるのは、誰よ。バカ」


 呆れながら、遥は財布から五千円札を取り出す。


「あと、このお金は返さなくてもいいからね。こういう手助けしかできないけど、ふたりで景品を手に入れようよ。ね?」


 ふたりでと口にした遥は、はにかんでいた。

 その顔の可愛さときたら、棚に並んでいる高額商品よりも価値がある。

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