2016年【隼人】04 気楽な感じで傍にいろ

『一回目・五〇〇円

 二回連続・一〇〇〇円(合計一五〇〇円)

 三回連続・二〇〇〇円(合計三五〇〇円)

 四回連続・四〇〇〇円(合計七五〇〇円)

 五回連続・八〇〇〇円(合計一五五〇〇円)』


「高額商品を狙って、お金をドブに捨てることになりかねないわよ? それでも、遊ぶつもりかしら?」


 決断するのは隼人だが、遥は自分のことのように真剣な顔で悩んでいる。それだけ、諦めるには惜しいカメラなのだろう。


 ここにきて、ようやく隼人も頭を働かせ始める。

 的を見ながら、点数を計算していく。

 四回連続で遊べば、一眼レフカメラと交換するのに必要な点数には届く。


 持ち金でどうにかなる。あくまでうまくいった場合だ。可能性は低い。

 ゼロではないが、先に遊んでいる人のように、大金を払って、駄菓子を貰って帰る未来も有り得る。


「ほら、いまから出来るけど、どうするのかしら?」


「ひとつ訊きたいことがあるんですけど」


「なにかしら?」


「弾を追加で購入する際に、的は交換してもらえないんですか?」


「なるほどね。ワンホールショットして、得点がノーカウントになるのを警戒してるのかしら? なかなか、面白い子ね。いいわ。毎回、交換してあげる」


「ちょっと、隼人。本気なの?」


 金髪ポニテが差し出してくる拳銃を受け取るために、隼人は遥から手を離した。

 いままでの柔らかくて温かい感触とは、真逆だ。

 リボルバー式のモデルガンは、硬くて冷たい。


「ああ、本気なんだね」


 遥は諦めの感情を含んだため息をつく。

 その横で、隼人は五百円玉で弾を六発購入する。


「まいどあり」


 金髪ポニテとは別の店員が、的を取り替えている。新しい的を取り付けると、店員はそそくさと移動し、ほどよいところで手を上げた。


「では、自分のタイミングではじめて、どうぞ」


「上等ォ」


 気合を入れて受け答える。リボルバーのグリップを手に馴染ませながら、隼人は遥に向かって微笑んだ。


「これでとれた景品は、遥にプレゼントするからな。だから、呆れずに見守っててくれ」


 うなずいた遥の瞳は真剣そのものだ。彼女のほうが、隼人よりも緊張しているようにも見えた。

 気楽な感じで傍にいればいいだけだぞ。


 十メートル先の的に、隼人は狙いを定める。

 両手で握ったリボルバーの引き金をひいた。


 発砲音のあと、的に変化はない。

 一発目を外した。


「隼人」


「大丈夫、大丈夫。思ったより、反動があっただけだからさ」


 金髪ポニテは、嬉しそうに微笑んでいる。


「そのリアリティも、うちのこだわりだからね。それよりも、お兄さん。あそこまで言っておいて、的にかすりもしないと、さすがに恥ずかしいわよ」


 プレッシャーが隼人の手をぶるぶると震わせる。


 そういえば、さっき遥も震えていた。

 嫌な思いをしたもんな。こわかっただろうな。

 あんな事件で、今日を終わらせていいはずがない。不良に絡まれた花火大会から、一眼レフカメラを手に入れた花火大会に進化させるのだ。


 遥が幸せになれるのならば、なんだってできる。


 二回目の発砲で、流れが変わる。

 的のど真ん中を撃ち抜いた。


 一度だけならば、まぐれかもしれない。


 だが、三回目、四回目と、真ん中付近の高得点を射抜いたら、これを何と呼べばいい?

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