2016年【隼人】03 なんとかは銃を選ばず

 射的の夜店は、人だかりが出来ていた。


 人の壁が邪魔になって、射撃音しか聞こえない。

 これから挑戦するのならば、あらかじめ見ておけば参考にできることもあるだろう。

 多少強引になっても、前のほうに進んでいく。


「隼人、あれ見て。あの景品!」


 上ずった声の遥に引っ張られ、並んでいる景品を目にする。

 夜店に並んでいる商品としては、格がちがう。正月の福袋に入っていそうな高級商品が揃えられている。


「ノートパソコンあるぞ。あれ、貰えるのか?」


「最新型の一眼レフもある。嘘でしょ。ネットで買ったら十万超えるわよ」


「マジか。よし、他の奴に取られないうちに、オレもやるぞ」


 景品棚を整理している金髪の女の子が振り返る。

 ポニーテールが、動物の尻尾のように揺れた。


「えーっと、射的で遊ぶつもりなのかしら?」


 店員と思しき女性は、隼人の意気込みを聞いていたようだ。


「お客様。うちは、回転率がすこぶる悪いのが特徴なの。原則として一人ずつ遊んでいただきます。並んでいただけるならば、いま遊ばれてる方の次にできますが」


「じゃあ、すぐにできるんですね」


「それはわからないわ。追加で弾を買われる方もおりますので。興味があるようでしたら、詳しくルール説明をしましょうか?」


「お願いしま――あっ、ちょっと待ってください。特殊なルールだとオレひとりで理解できないかもしれないから。遥、力を貸してくれ」


 景品を見定めていた遥が「オッケー」と返事をすると、店員はうなずいた。


「お二人で相談して、慎重に遊ぶかどうかを決めたほうがいいですよ。理解できていなければ、財布の中身が空になるでしょうから」


 さすがに、それは大げさだろう。不良から守りきれた一万円がある。それが、そう簡単に溶けないだろう。


「うちの射的で使うのは、本格的な拳銃。と言っても、使う弾はBB弾ですがね」


「よくみる、コルクかなんかを詰めて撃つタイプじゃないんだ」


「アレだったら、隼人得意だったのにね」


 その通りだ。一眼レフカメラも貰ったものだと思っていた。

 だが、水鉄砲やエアガンの扱いにも長けている。

 なんとかはを選ばず。どんなものを使おうと、昔から射撃が得意なので問題にはならない。


「的は、得点が書かれたA4の紙を使用します。いま遊ばれてる方が見えるかしら?」


「ええ、なんとか」


 先程より人だかりが減ったのもあって、見えるようになっていた。


「的までの距離は、およそ十メートル。射撃ポイントからだと、点数が見えないと思うので、色で区別がつくようにしています。ちなみにこれが使用する的よ」


 店員から差し出された的を遥が受け取る。色付けされた的は、ダーツの的によく似ていると隼人は思った。

 数の少ない色ほど高得点で、当たり前だが狙いにくい位置にある。


「あれ? これおかしくないですか? 仮に、全部を高得点で撃ち抜いても、一眼レフはおろか、アクセサリーにも点数が届かないんじゃ?」


 隼人は計算する気がなかった。遥がいうのだから間違いないだろう。


「ぼったくりか。帰ろうぜ、遥。たこ焼き食おう」


 金を支払う前に気付いて、良かった。いま遊んでいる人が不憫でならないが、知ったことではない。このまま立ち去るのが賢い選択だ。


「追加だ。もう一回、連続でやる」


 熱くなっている客が宣言して、千円札を四枚取り出す。受け取った射的屋の店員はお釣りを返さない。

 それを見ていた遥が、またしても反応する。


「あれ? 一回、六発で五〇〇円じゃないんですか?」


「お釣り返してなかったか。やっぱり、ぼったくりだ。遥、たこ焼きをあーんしてくれ」


「最後まで説明をさせてもらえないのかしら?」


「えっと。もしかして、あたし何か勘違いしてます?」


「そうね。でも、間違ってはいないわ。おっしゃるとおりで、どんなに高得点をたたき出しても、一回五〇〇円では高額商品に交換するための点数には届かないの。だから、点数を引き継いで射撃を続けることもできるのよ」


「オレの見間違いでなければ、四千円を支払ってたよな。つまり、あの人は連続であと四回、二四発も撃てるのかよ」


 だとすれば、厄介だ。

 それだけ撃てれば、一眼レフと交換できる点数を貯められてもおかしくはない。むしろ、隼人ならその自信がある。


「ちょっとちがうわね。今回、お客様が購入したのは、六発だけなの。連続でやる度に、前の倍の金額を頂いてるからね」


「隼人、こっちに料金表が用意されてるよ」


 遥が指差す看板には、でかでかと料金が書かれている。

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