お姫さまの犯罪

 王さまには、うつくしい三人のお姫さまがおりました。


 一人めのお姫さまは、おっとりとして、おっぱいがおおきく、甘やかしたがりのおねえさんでした。

 二人めのお姫さまは、スクール水着のかたちの日焼けが健康的な、胸がちいさくてショートカットの似合う女の子でした。

 三人めのお姫さまは、おさげの似合う眼鏡の女の子で、おとなしいけれど、異性の体がどうなっているのか興味津々な年ごろでした。

 お姫さまたちがすがたをみせるたび、国の男たちは、暑っ苦しく自分をアピールするのです。

 が、みんなが顔見知りのせまい国のこと、結局はそれぞれの姉や、妹や、世話好きのおさななじみにみつかって、

「もう起こしてあげないんだからね」などといわれながら、ぞろぞろとひっぱられてゆくのでした。

 王さまは脱ぐと筋肉質で、笑った顔が千鳥のつっこみのほうみたいに優しく、ゲイたちもたいそう人気がありました。


 ある晩のことです。三人めのお姫さまが、お城の図書室で保健の教科書を読んでおりますと、一人めのお姫さまがやってきました。

「こんな時間までお勉強? えらいのね」そしていいますことには、二人めのお姫さまが病気だ、とのことでした。

 三人めのお姫さまは、びっくりしてしまいました。

「あの子、胸がちいさいでしょう。あれは、ヒンニュー病(独: hin­nieu syn­drom)って病気なの。わたしがいっても、反抗してしまうひねくれ屋だから、こっそり、このお薬をあの子の料理に混ぜておいてほしいの」

 そういって、ドクロのマークがついた一包の薬包紙を渡しました。三人めのお姫さまは、素直でしたので、はいと受け取ってうなずきました。


 部屋にもどって、三人めのお姫さまがベッドのなかで悶々としておりますと、二人めのお姫さまがやってきました。

「眠れねえのか? 顔、真っ赤だぞ。風邪か?」そしていいますことには、一人めのお姫さまが病気だ、とのことでした。

 三人めのお姫さまは、びっくりしてしまいました。

「ねーちゃん、胸でかすぎるだろ? あれは、狂牛病らしいぜ。つっても、妹のいうこと聞くひとじゃねーじゃん。だから、こっそり、この薬をねーちゃんの料理に混ぜてくれねーかな」

 そういって、おおきく「!」と書かれた一包の薬包紙を渡しました。三人めのお姫さまは、素直で肌もつるつるでしたので、はいと受け取ってうなずきました。


 さて、その翌朝のことです。ひとばらいを済ませた席で、王さまと、お妃さまがはじめました。

「じつは――耳にはいっているかもしれないが――ひとり隣国の王子に嫁がせなくてはならない。順番からいって、上のふたりだ」

「隣国の王子は、ハンサムで、歌がうまくて、歯が白くて、俺様系で、細マッチョでよだれがでそうな体をしているけれど、嫌なら嫌といっていいのよ」

「わしたちは、娘のしあわせが第一だと思っておる」王さまはつづけました。

「さらに、ひとりを隣国の隣国の王子に嫁がせなくてはならない」

「隣国の隣国の王子は、汗くさくて、オタクで、童貞をこじらせているから無茶なプレイを要求してきそうだけど、嫌なら嫌といっていいのよ」

「そりゃ、嫌だよ」

「大人には汚れる悦びもあるのよ」

「わしたちは、娘のしあわせが第一だと思っておる。だから、政治的に決めるのではなく、おまえたちの意見を聞きたい」

 一人めのお姫さまが手を挙げました。

「はい。わたしが隣国の王子に嫁いで、この子を隣国の隣国に嫁がせましょう。この子は体を動かすのが好きだから、きっと隣国の隣国の王子を健康的にして、繁栄する国にしてくれるわ」

「なるほど」王さまがうなずきました。

「はい。おれが隣国の王子に嫁ぐよ。ねーちゃんが隣国の隣国に嫁いだほうが、きっといいと思う。ねーちゃんはおもに胸に母性があふれてるから、思いやりのある国にしてくれるぜ」

「一理ある」王さまがうなずきました。

「隣国の王子、スポーツ万能なんだろ? きっと、ねーちゃんじゃ途中でバテちまうぜ」

「隣国の隣国の王子みたいな内省的なタイプは、愛が深いわよ。たいがいロリコンだから、年下が適任よ」

「もっと若いのがいるじゃねーか」

「あの子は駄目よ。男のに骨がはいってると思ってるくらいだから」

 三人めのお姫さまは「えっ」と思いました。

「おお、そうじゃ、おまえはどう思う」

 王さまにたずねられて、三人めのお姫さまは、どきッとしました。

「わたしは――」それよりもまず、ふたりの病気を治すことがさきなのではないのかしらん。

 自分にはまだわからない国の都合が、そんなのんびりを許さないのかもしれない。それでもおたがいに苦労を背負って、すこしでも相手をいい国へ嫁がせようとしている。ふたりの姉の思いやりを考えると、ぽろぽろと涙さえでてくるのでした。

「できることなら、わたしが――」

 かわりに、といいかけたところで、二人めのお姫さまが口から血を吐いて倒れてしまいました。

「てめえ」

「まあ、悪い病気なのかしら。五分くらいで死んじゃうかもね。隣国にはわたしがげぶー(吐血)」

 いままで笑っていた一人めのお姫さまも、口から血を吐いて倒れてしまいました。

「なんということ!」あまりのことに、お妃さまも三人めのお姫さまも失神してしまったのでした。


 さて、その話を聞いた隣国の隣国の王子さまは、

「可哀想なのはぬけない」といって、むしろ婿にはいることを志願しました。隣国の隣国の王さまは王子の勇気に胸を打たれ、国は合併して三菱UFJ銀行的な感じになりました。さらにあれから十ヵ月と十日後には王さまとお妃さまのあいだにあたらしいお姫さまが誕生し、人々はようやく二人のお姫さまを同時にうしなった悲しみから立ち直ることができました。

 隣国の王子へは三人めのお姫さまが嫁ぐことになりました。王子は彼女を情熱的に愛し、ときおり壁ドンしたり顎クイしたりしながら、末永くしあわせに暮らしたとのことです。

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