七臭

「わたくし、縁を切るように申し上げましたのに」

 病院のベッドに横たわる脇で、小さな自称女子高生は器用にリンゴを向きながら言った。

 あの日、私を刺したのはとある人の奥さんだった。そう、朱美は不倫をしていたのだった。二股どころの騒ぎじゃなくて六人と。

 しかもアリバイどころか相手と会う時は私の化粧を真似て同じ香水を使い、住所も私のマンションを教えていた。

 それで浮気のバレた一人が住所を話し、化粧から朱美だと判断して襲ってきた。

「どうせ恨むんなら浮気した旦那を恨めばいいのに……」

 ウサギになったリンゴをお皿に載せて小さな自称女子高生はベッドに備え付けのテーブルに置いてくれた。ちゃんとフォークも付けてくれている。

「ラフカディオ・ハーン…小泉八雲の方が有名でしょうか。

 その方のお話の中で、亡くなった奥様に後添いはとらないとご主人は約束するのですが

後妻を迎えてしまうのです。

 前妻は幽霊となって現れ、最後には後妻を殺してしまいます。

 それのお話を聞いた小泉八雲は、約束を破ったのはご主人なのに。恨むならご主人だろうと」

「あっ……」

 まさに今の私の言葉そのものだ。

「その話をした方はおっしゃったそうです。それは男性の考え方ですと。世の中には色々な考えがあるものですね」

 小さな自称女子高生は部屋についている流しで果物ナイフを洗うと、ハンカチで来るんで自分の鞄にしまう。

「それでは、ゆっくり養生なさって下さいませ」

 可愛らしくお辞儀をした小さな自称女子高生は、もう私のことなど忘れてしまったような顔で部屋を出て行った。

「あっ、沙織さん。わたくしが来るたびに抜け出してはいけないとあれほど……だめですわ。本当に身体に戻れなくなってしまいましてよ」

 廊下で知り合いと会ったのか女の子の声が聞こえる。

 ここに入院してから嫌な臭いはしなくなっていた。

 と言うよりも、もうまったく感じなくなっていた。

 一時的と小さな自称女子高生が言っていた時期を過ぎたのだと思う。

 そう考えて、ふと気が付いた。

 あの小さな自称女子高生は、いつもあの嫌な臭い――死向臭を感じているのだろうかと。

 だとしたら、それは――

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死向臭 紫光なる輝きの幸せを @violet-of-purpure

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