六臭
「また、よろしくねー」
「はいはい」
何度目か分からない朱美のアリバイ工作。
つんとした嫌な臭いが鼻をついた。
さすがに私も気が付いていた。朱美のアリバイ工作を頼まれると、嫌な臭い――死向臭が鼻を突くのだ。
帰宅しながらコンビニで夕飯を買っていても死向臭を感じる。どこか近くで誰か死ぬんだろうか。
無事マンションに着いて、ほっと一息。おかしい、なのに臭いが消えない。
シャワーを浴びて身体をこすっても臭いは変わらなかった。
一晩経っても臭いは消えず、それどころか臭いが強くなった気がする。
臭いを誤魔化すためにいつもより強めに香水をふりかけて出勤した。
自分のための香水は職場では評判が悪くて、付けすぎだと先輩にも怒られた。
朝には香水で誤魔化せていた臭いも帰りには、誤魔化せないくらいに強くなっていた。
「今日もお願いしたいんだけどなぁ。だめぇ?」
ロッカールームで、また朱美からアリバイ工作を頼まれた。
「急に彼から連絡があってぇ。ちゃんと後でお礼するからぁ」
「……分かった……」
臭いを気にしている私は、早く安全なマンションに帰りたくって適当に返事をした。
「ありがとぉ」
朱美に抱き疲れても臭いが気になって、とにかく早く帰りたい。
電車の中でも周りに臭いが漏れていないか気にしながら普段の何倍もの時間がかかった気がしながらマンションのある駅に着いた。
駅からマンションに向かうと臭いが強くなった……死が近づいている?
でもでも、理由が無い。
どうして? 私が死ぬ理由が思いつかない。健康診断だって問題無かった。
立ち止まったのに臭いは、どんどん強くなる――と左腕に痛みが走った。
「えっ?」
左腕に触れた右手が赤い。
赤いものが血だと理解する前に、今度は左太ももに痛みが――
立っていられなくて膝とつくと後ろから突き飛ばされた。
うつぶせに倒れた私の背中に誰かが乗っかっる。
「貴方が死んじゃえば全部解決よね、“朱美さん”」
「私は、朱美じゃ…」
「うるさいわよ」
背中に乗っている、多分女の人は私の頭を掴んで何度も地面にぶつけられる。ぶつけられた頭と左腕と太ももが痛い。
「女子高生鞄あたーっく」
ふいに聞こえた変な掛け声と共に背中が軽くなった。
地面に頭をぶつけられたせいか、ぼーっとする頭で身体の向きを帰ると――小さな自称女子高生が鞄を手に立っていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます