6号室「暴食」

 ある一人の少年は、食べることが好きだった。

美味しそうな店を見つけては看板メニューを食べに行き、旅行先では隠れた名店を探し、自分で料理の研究もした。

食事の時は彼は幸せそうで、笑顔が溢れていた。


そう、食事の時だけは。


 彼はいつも罪悪感と頭痛に襲われていた。

人の寿命をも食べてしまったのだ。

人の未来を食べてしまったのだ。

彼に寿命を食べられた少年は、期待されていたサッカー選手への道を閉ざされた。

彼に寿命を食べられた少女は、夢だったパティシエには二度となれなくなった。


 肥大化する罪悪感に耐えられず、彼は家に引きこもるようになった。

「危ないから」と家族も寄せ付けなくなった。

好きだった食事もしなくなった。

幸か不幸か食べてしまった寿命がエネルギーとなって、彼は生き続けた。


 ある日、彼の両親は久しぶりに彼に話しかけた。

彼が十八歳の時のことだ。

「解決法が見つかった」と。

彼はドアから出ないようにしながら、話を聞いていた。

両親はそのまま、その「解決法」を彼に話した。

両親によると、彼の「寿命の胃袋」を破裂させるまでの寿命を食べられれば、彼はもう能力を食べることは出来なくなるという事だ。

彼はそのチャンスに賭けることにした。


 そして「解決法」を行う日。

彼はある病院の特殊病棟の一室にいた。

そこには、「不死鳥病」の少女がいた。

死ねずに苦む少女がいた。

少女は「もう生きたくない」と嘆いた。

彼は「もう食べたくない」と嘆く自分の姿をそこに重ねた。


 彼と少女は少し会話をして、微笑んだ。


 彼は少女の額に手をかざし、少女を呪縛から解放した。

そして、彼は胃袋の破裂によりその場に倒れ込んだ。

彼の目が開くことは、もうなくなった。


数年後。

特殊病棟の庭には生命力でいっぱいの太い幹を持つ楓がその葉を風に揺らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

命の使いみち 涼暮有人 @sky_February

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る