5号室「不死の病」

 涼しげな風が窓から入って彼女の白い頬を撫でる。

風は、彼女の細い指にまとわりついてしばらくくるくると回ってから静かに消えた。

彼女は少しだけ寂しそうな表情でそれを見ていた。


 特殊病棟の5号室には、強力な力を持つ少女が入院している。

彼女の病名は、「不死鳥病」だ。

その症状は、名前の通りだ。

死んでも死んでも、彼女は同じ姿で生き返る。

歳をとらず、体調を崩すこともない。

そんな強力な力の持ち主なのに、彼女は苦しんでいる。いや、だからこそと言うべきだろうか。


 彼女の家族は、とっくに亡くなっていた。

彼女の両親は勿論、兄弟や甥、姪すらも亡くなった。

共に騒いだ友人も、嫌いだった教師も、優しかった主治医も。

そして、恋をした彼も。

彼女よりも先に、亡くなってしまった。


 彼女の無限の寿命についていける人間なんているわけがないのだ。

人は必ず死を迎えるのだから。

人の身体には限界があるのだから。

でも、一種の呪いのような病に罹った彼女だけは、生き続ける。


そう、決まっているはずだった。


 ある日、白い肌とすらっとした体躯を持つ青年が彼女の前に現れた。

彼は言った。


「僕になら、君を救うことが出来る。君を、殺すことが出来る」


と。


それを聞いた彼女は、胡散臭そうに彼を見た。

真っ黒な髪に、白い肌。身長は高く、スタイルもいい。

なにかの詐欺師のような見た目だ。

彼女は彼に問うた。


「どうやって救うというの?私を殺すなんて無理よ」


そう、軽蔑を込めた声で。

彼は自信溢れる表情で答えた。


「僕の力ならできるよ。君と僕の力は、対を成す力だ」


と。

そう言って、彼はおもむろに彼女の額に手をかざした。

彼女は、ひとつの質問を彼にした。

それは、彼女の最後の言葉となった。


「あなたの力ってなに?」


彼は微笑んで答えた。


「───そのものの寿命をゼロにする力さ」



彼女は微笑んだ表情で、目を閉じた。

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