願い
夏が春という彼女がいるにも関わらず、浮気をしようと私に近づこうとしている事。
きっかけは、温暖化等の問題を機に彼の力が増した事ね。彼は若いから、調子に乗りやすいのかしら。
その話を春から聞いたの。
毎年春から今まで夏の愚痴は聞いていたけど、それでも仲良く一緒に過ごしていると思っていたの。
春がどこで夏の事を勘づいたのかわからないけど、もしかしたら女の勘なのかしらね。
春に会って夏の話を聞く前に、彼から夏の事を聞いていたから、春の話に合点がいったけど。
つまり夏は、春と彼の両方から私に近づこうとしているって事ね。このまま夏が私に近づいてきて彼らを飲み込んだとしたら・・・・
それこそ、「四季」ではなく「二季」になってしまうわ。
日本の四季は、暦でおおよそ九十日。
どちらかの季節を百日でも夏に侵略されたらもう私に触れる事になってしまうでしょう。
そう、私が彼に会うまでに待ったあの十日をきっかけにやがて積もり積もって、一つの季節が一つの季節を飲み込んで私に触れる事になったとしたら・・・・
何度も言うようだけど、私達の存在が完全に消える事はないわ。
でもね・・・・
これ以上彼らの辛い顔を見たくないの。
春の彼女は、夏に近い性質を持っているから彼よりは苦しまずに済むわ。だから私に会った時も彼より辛い顔はしていなかったわ。もしかしたら本当は辛かったのかも知れないけれど、私にはそんな表情を一切見せなかった。これも、相性の問題ね。
でも、彼にとっては・・・・
このままだとあなた達の季節の概念を消すのではなく、季節の実体をあなた達は感じる事がなくなる。
つまり、あなた達に忘れ去られること。
それは同時に彼や彼女の命を短くすることなの。
彼は毎年、夏と戦っている。
決して若くはないのに、それでも私に近づけさせないように、私を庇ってくれている。
そんな彼に私は何も出来ないの?
そんな不安を抱きながら、彼に毎年会うのは耐えられなくなる。
・・・・あぁ、ごめんなさい。
私の自己紹介をしていなかったわね。
でもあなた達なら、もう勘づいているでしょ?
そう、私は日本の冬。
一年の始まりを告げる役割を担う重要な季節よ。
そして、彼は日本の秋。
私が最も愛していて、最も大切にしている男。
暫く考えていたけれど私に出来る事は、あなた達にメッセージを送る事。新年を迎えたこの日にね。元旦には、冬の季節を司る私にだけこうしてあなた達にメッセージを発する事が許されているの。
今まで決断出来なかったのは、私に覚悟が足りなかったから。実はね、このメッセージを送るとその年の私の季節が十日減る事になり、あなた達は例年より早く春の訪れを感じるようになるわ。
それは私達にとってとても怖い事なのよ。
自分の命を削る事になるんだから。でも春と秋が頑張っているのに、私が何もしない訳にはいかないわ。だから、こうしてあなた達に訴えかけているの。
私の季節には、様々な始まりとお祝い事があるわ。
そんな時、冬の季節をあなた達が感じるような事がなくなったら?あなた達からは、決して私達の概念はなくならないでしょうけど。
私が危惧している事は、例えば十年後や二十年後・・・・いや、百年後。百年後にあなた達が感じる、春と秋の時期が少なくなるという事。
あなた達人間の寿命は私達からしたらとても短いわ。だから、あなた達はそんな事私達に関係ないと言うでしょう。
でもね、あなた達の後輩達に私達を感じてもらう為に、今あなた達がするべき事があるんじゃないの?それは今を生きるあなた達の重要な役割ではないのかしら。あなた達の先人達がしてきたように。
春を春らしく、秋を秋らしくあなた達が過ごす日々こそが、それは同時に私達の寿命でもあるの。
忘れ去られる事は、その存在を消す事になるのよ。
人間だって、同じよ?亡くなった人達を誰かが思い出さなきゃ、亡くなった人達はどこで生きるのよ?
それにね・・・・
四季らしい天候や体感って、大事でしょ?
あなた達は、私が力を強めると、「寒いね」って言って温もりを欲するわ。「だって、冬だもん」とあなた達は、当たり前のように口にするでしょ?
私がこうして、あなた達が私を受け入れてくれているのは、秋の彼がいるからなの。彼が桜の木を紅葉に彩らり、それが年末に向けてのもの悲しげな雰囲気を作る訳。
何事も何かの始まりや終わりには、助走や準備が必要よね?それが、彼なの。秋なのよ。彼がいなければ、私が始まる事がないの。
謂わば、彼が私の全てなの。
そんな私達をあなた達は受け入れている。あなた達が生まれる前、遥か昔からね。これは、あなた達にとって至極当然な事よね?
あなた達が四季を感じてくれるから、私達は自分達の存在を意識するのよ。
あなた達が・・・・
日本のあなた達が・・・・
一人一人が環境問題に関心を向ける事、意識を持つ事が始めの一歩になるんだわ。私達を活かすも殺すも、あなた達次第なのよ?
あなた達なら、きっと何とかしてくれるに違いない。
私は、信じているわ。
だから・・・・
夏の暴走をあなた達が止めて・・・・
止められるのは、あなた達しかいないのよ・・・
最初に言ったでしょ?
私、暑苦しい男苦手なの。
私を・・・・
私達を助けて・・・・
あなた達ならきっと、大丈夫。
Message ソゼ @keyser-soze
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます