不安
最近、不安な事があるの。
もし、この四季を感じなくなったらどうなるのかなって。実際には、四季の存在はなくならないわ。
私が言いたいのは・・・・
「四季を四季らしく感じない」事よ。
あなた達は、実際に生活していてどう感じる?
近年の温暖化やヒートアイランド現象、エルニーニョ現象、ラニーニャ現象、あとは様々な環境問題が取り上げられているわ。その影響もあって、異常気象によって災害が起きたわね。
ここ十年くらいかしらね?
春を春らしく、秋を秋らしく感じる日って少なくなったと思わない?
私が怖いと思っているのは、実はそこなのよ。
春の時期に、桜が予定日より開花が早まったりしてみんな変な気分になったりしない?
秋の時期に、厚着で外出したら、まだ暖かい時期が続いて、暑さで着ている服を脱がなきゃいけないのよ?面倒だと思わない?
それに伴う、異常気象も問題よね。
野菜が高騰して、生活費は圧迫されているわ。
気に入っていた商品が値上げしたり、販売停止にもなって悲しい思いをした人もいるはず。
年々、猛暑日による最高気温を更新している地域があるじゃない?ヒートアイランド現象だ、高気圧が影響だって話を耳にするけれど、私達からしたら不安しかないわ。
もしよ?
あくまでも、可能性の話よ?
・・・・夏という括りの日数が延びたら?
そんな事を考えた事ってある?
馬鹿馬鹿しいとあなた達は、嘲笑するでしょう。
そんな事は、有り得ない。
何を根拠にそんな話をしているんだって。
当然の反応よね。
日本が位置する、緯度や経度。
あとは、海流によってとか様々な要因があって四季が成り立っている事は、承知しているわ。
でもね。
この世に絶対はないように、有り得ない事が起きるのが、この世界よ?
地球という星で生きている限り。
自然に囲まれて生活をしている限り。
予想や想像なんて、人間という動物がしている事なのよ?
そう。
自分達が動物だって、毎秒毎秒認識しながらあなた達は生活している訳ではないでしょ?
・・・・ごめんなさい。
少々、生意気な言い方をしてしまいましたね。
・・・・そうよ。
あなた達に聞いて欲しい事があったんだわ。
実はね、ある年から彼の気配を遠く感じるようになってきたの。
毎年、彼は私に会う為に近づいてきてくれる。
彼が近づいてくる気配を感じると、胸が踊り嬉しくなったわ。
あぁ、また彼に会える季節になったのねって。
やっぱり好きな男に会うと、女って嬉しいものよ。
男も一緒よね?やっぱりそうよね?
ましてや、頻繁に会えない好きな男と会う時って少し緊張するけれど、それでも彼の笑った顔を見たり彼に触れて温もりを感じたいのよね。
でもね・・・・
その年は、いつもの待ち合わせの時期になっても彼は現れなかった。
どうしたんだろうって、最初は思ったわ。
彼はとても真面目な性格だから、いつも待ち合わせには遅れて来る事は、そんなになかったわ。でもその時は、妙な胸騒ぎを感じたの。
だから、彼が私に会いに行く際に通るいつもの道で私は待ったわ。
いつもは、彼が私を迎える事が多いからなんだか新鮮だったわ。でも、そんな新鮮さは長くは続かなかった。
彼はなかなか現れなかった。
一日待ち、三日待って、一週間が経った。
ねぇ?何があったの?
不安はやがて焦りに変わったわ。
どうしよう?このままでは・・・・
それでも、彼を待ち続ける事しか出来なかった。
これ以上、彼に近づく事がその年には出来なかったから。
それに、彼が好きだから。
私は彼以外の男を知らないし、知りたくなかった。
彼を困らせる事も出来なかったし、したくなかったの。男って誰でもプライドがあるでしょ?
だから、待ち続けたの。彼を待ち続けて、一週間が過ぎ十日が経った時よ。
ようやく彼の姿を見えた時、私は嬉しくて涙が出たわ。いつも彼が迎えに来る事を当たり前にしていた私にとって、こんなに心細い事が今までになかった。だから、涙が止まらなかったの。
彼に会って訳を聞いたわ。
「なんでいつもの時期に来なかったの?」
「私、十日も待ったのよ!」
「こんなに寂しい思いをさせないでよ!」
私って、身勝手かしらね?
彼は少し疲れた様子だったけれど、私は十日彼を待った想いをぶつけてしまったの。
でも、その気持ちは女性だったら共感してくれるわよね?
彼から聞いた遅れた理由は、私の想像の遥か上をいっていたの。
「どうして彼が?」
「何故、そんな事が出来るの?」
「このままじゃ、あなたはどうなるの?」
そんな事ばかりが脳裏によぎった。でも、決して口にはしなかったの。言葉にしたら、なんだか怖かったから。それでも彼は、私が心配しないように私を励ましてくれたわ。彼は本当に気遣いが出来る男よ。
「大丈夫、心配するな」って。
彼とは時間が許す限り、一緒に過ごして別れたわ。
「また、来年会おうな」
「・・・・えぇ」
そんな会話を最後に彼は来た道を戻っていったわ。
彼の後ろ姿が気のせいか、去年見たより小さくなった気がする。
私は気が気じゃなかった。
どうしてあなたは、こんな事態にも関わらずそんな顔が出来るの?
だって、あなたが・・・・
あなたの命が・・・・
でも、彼を救える事が私には出来ない。
こんな不甲斐なさを感じた事は、初めてだったわ。
今の私には前に進むしか出来なかった。来た道を戻りながらも、彼の事で頭がいっぱいだったの。
翌年から彼は、待ち合わせに遅れてきたわ。
今まで、こんなに遅れる事はなかったのに。確実に彼を待つ日数が延びてきていた。
彼の顔は年々にやつれていって、彼の顔を見るのが段々辛くなっていったわ。
あんなに彼に会う事が楽しみだったのに、あの話を聞いてからの私は自分の不甲斐なさとやるせない思いでいっぱいだった。
彼を助ける事が本当に出来ないの?
好きな男が大変な時、苦しんでいる時に何も出来ない私の無力。こんなに辛い事だと思わなかった。そんな事を考えているのを不審に思ったのかしらね。一番懇意にしている彼女に勘づかれたわ。
「どうかしたの?」
彼女の第一声は、そんな言葉だった。
彼が遅れて会いにきた翌年、毎年会う彼女に会いに向かったわ。私は、彼が来るのを十日待っていた事と彼の事を考えていた事もあって、彼女との待ち合わせに遅れてしまったの。だから彼女は、近くまで私に会いに来てくれた。彼に私が会いに行った時と同じね。
何でも相談出来る同性って、やっぱり大事よね。
彼女の程好い暖かさに包まれた私は、彼から聞いた話を、そして私が抱えている不安や焦りを吐露したの。そうしたら彼女は、私の話を熱心に耳を傾けてくれた。暖かく優しい女性よね、本当に。
私が話を終え彼女の顔を覗くと、噛み締めるような表情を浮かべていたわ。やがて何かを決意した顔つきになり、彼女は話を切り出した。
彼女の、ゆっくりと落ち着いた話し方に以前から好感を抱いていたわ。でもね、話の内容に驚きを隠せなかったの。彼女が話した内容と彼から聞いた話の内容で合点がいったわ。それと同時に私は、彼と彼女の身を心配するようになったの。
「大丈夫。絶対に彼をあなたに近づけさせないわ」
彼女も彼と同様、私が心配しないように優しく励ましてくれた。あなた達はどうしてそんなに優しいのよ、まったく。
彼女とも時間が許す限り、他愛もない話から彼の事まで話をした。やがて彼女は立ち上がり歩き出した。彼女が前に歩きだす後ろ姿を見送ったわ。彼女は一度も振り返らず、その背中から発せられる光は私へのメッセージのように感じたの。
私は再び彼と会うその時まで自分が出来る事を考えたの。
今はまだいいかもしれない。
すぐに何かが変わる事はないのかもしれない。
塵も積もればではないけれど、着実に事は大きくなっていっているの。
それはね・・・・
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