第110話 先手必勝

 コンビニから手芸館までの帰り道、せっかくだから一緒に帰りませんか? と邪悪なるゼクス様に提案され、俺達は肩を並べて歩いていた。

 静かだ……誘われた時はまたロクでもない話でもされるのかと思ったけど、どうやら普通に帰るだけらしい。

 拍子抜けし、いや平和が一番だろ毒されてんじゃねえよ。

 黙っていれば美人というのは以前俺が舞子さんに対して思ったことだが、ゼクスの場合は黙っていてもアレだよな。上からでも白銀のマスクの主張が激し過ぎる。

 なんで今この二人を引き合いにだしたのかって言うと、この二人は学園で数少ない一切気を使わなくていい相手だからだ。まあそれも俺の心労とイーブン出来る程のメリットじゃないからもう少し慎みとか持って欲しいんだけど。


「いやー、男の子と二人っきりで下校するなんて生まれて初めてですねー」

「へー……」


 珍しく静かだと思ったらそんなこと考えていたのか……。

 まあ女子校だからな。ゼクスが今二年か三年か忘れたけど、もし中等部からクラフトに居るなら既に五年選手だ。それより下の時は集団や親と登下校してただろうし意外でもなんでもない。


「これでも蝶よ花よと育てられてきましたからねー」

「ほーん」


 あーいや、こんな仮面被ってるヤツが外界に居たらTwitterとかで晒されて秒で話題になってるだろうから、多分発生した瞬間から中等部の生徒で学園の敷地内でしか存在出来ない生命体とかだな。そう考えれば今までの常識の無さも納得だ。だって五歳児だもん、しんちゃんとタメだぜ? ちゃんと服着てるだけでも偉えよ。


「……ちゃんと聞いてます? 塩対応が過ぎますよ。女の子の初めてなんですからもうちょっと喜んでくれてもよくないですか?」

「聞いてるって。蝶のように舞い蜂のように刺すんだろ?」

「ええ……」


 アリが死ぬほどカッコいいのは同意するけど……なんでこいつ突然ボクシングの話題なんか始めたんだ?

 

「まあいいでしょう。……いえ、まったくよくはありませんが。ふふっ、私もそろそろ倉井くんの扱い方というモノがわかってきましたよ」


 よくわからんけど嬉しそうだし害がないならなんでもいいか……。


「今の話とは関係ないんですが倉井くん、私からも一つ聞いていいですか?」

「おう?」

「倉井くんがロリコンだって噂は本当でしょうか?」

「ロリ……なんだって?」

「ロリコン。小児性愛者です」


 うーん聞き間違いじゃなかったか。そりゃこいつが無害なわけないよな。

 しっかしまた嬉しそうに意味不明な単語を放り込んで来たなー……。


「えっと、ゼクスさん、もしかしてあなた喧嘩売っていらっしゃる?」


 けど今日の流れで俺をディスれるとかどんな神経してんだ? こいつ。命が惜しくねえのかよ。


「いえいえとんでもない! 私が言い出したことじゃなくてですね、倉井くんの周りにはやけに小さな女の子が多いので、一部からそういった疑惑が出ているんですよ」


 誰だよそんな悪意しかないような噂を流したのは。おまえしか思い浮かばないぞ。

 それに小さい女の子? 誰だ……なんて考えるまでもないわな、どうせ電波だろ。

 俺、そんなにあいつと一緒に居るか? ……居るわ。

 いや、でも仕方ないだろ。同じクラスで普段から喋れるくらい仲良くなったのって電波含めて三人しか居ないんだぜ? それをおまえ、三分の一を見てロリコン扱いとか疑わしきは罰せずの理念に反するだろ。

 でも“多い”ってことは複数か……クラスメイト以外でよく一緒に居るヤツというと……真露はロリ枠に入るか?

 いやあの胸でロリは無理があるだろ。ロリ巨乳……いや精神年齢はそっち側かもしんないけど、花の女学生がそんな言葉でキャッキャしてるのとか考えたくもねえ。魔法は解けかかってるけどもう少し夢見させてくれよ。


「金髪のすっごい小さい子と、一人だけ違う制服着てるモノクロな子とかです。あと同室の鹿倉衣さんもかなり小柄ですね」


 やっぱり電波、と南雲、ルクルか。

 でも一番最後のはロリはロリでもクソガキの部類っすね。


「それに私とか……」

「誰かはわかった。けどルクルはともかく二人には絶対言うなよ、あいつら小さいの気にしてるから。あとその噂流したヤツ社会的に殺しといてくれないか?」


 どんな手を使ってくれてもいいよ。殺しのライセンスだってあげちゃう。


「違うんですね……じゃあ私の方で疑惑を払拭できそうな話を流しておきます」


 世論操作みたいなことまで出来るのか……敵に回すと厄介だが味方にすると心強いヤツだな。

 こういう強で狂なキャラは味方にするとだいたい弱いからなスパロボとか。ゼクスがそうじゃなくて良かったと心底思う。思って良いのか?

 また敵に回らないよな?

 覚悟だけはしておこう。なんてったってこいつは呂布だ。本能寺の変だよ。


「待てよ」

「はい?」


 それはそうとして一つ、いや二つばかし言っとかなきゃならん。


「俺が熟女好きだって噂で相殺しようとしているなら絶対やめろよ」

「それも考えましたが……なぜわかったんでしょう」


 不本意ながらこいつの考えることが少しわかるようになってしまった。

 0か100か極端なヤツだからマジで。


「ホモだって言うのもやめろよ」

「しませんって。少しは信用してくださいよ、私をなんだと思っているんですか」


 おまえをおまえだと思っているからこそ当然の懸念だが?

 とは言わないでおいてあげた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る