第63話 有ったらびっくりだよ。
「はあああああああああ!?!?」
「うおっうるせっ」
南雲の絶叫があたりに響く。鼓膜を刺すあまりの声量に、俺は耳を押さえて後ずさった。
「なななななんでてめーがおね、姉貴と繋がってんだ!?!?」
「今お姉ちゃんって言いかけなかったか?」
「そこは聴こえないフリでもいいからスルーしとけよ!!」
「めちゃくちゃ言うよな」
「百歩譲ってそりゃあいい!! けどなんでてめーがこんなもん持ってきてんだよ!!」
「……? あれ、叶さんから聞いてないのか?」
「なにが!!」
キレ芸かってくらい真っ赤だなこいつ。元が白いから興奮した時の変化がよくわかる。
「帰省中にたまたま知り合って、俺がここの生徒だって言ったら届けてくれって頼まれたんだよ。ちゃんと妹さんに連絡しといてくださいねって言ったんだが……」
この様子だと忘れていたみたいだな。正しくない意味で適当そうな人だとは思っていたけど、第一印象まんまだったか。つーかそのせいで貴女の妹さんブチギレ寸前なんですが、とばっちりが過ぎません?
「……っ、……ぅう!!」
振り上げた拳の下ろし場所に困っているんだろう。しばらく唸り続けた南雲は、諦めたように天を仰いでから俺に向き直った。
「……ありがとよ。手間かけたな」
「おう。以外と冷静なんだな」
さっきのリアクションからして、恥ずかしさのあまりキレるかなと思っていたが、自制する理性は残っていたらしい。
「……この状況で、おまえに当たるのが違うってことくらいあたしにだってわかる」
「そうか。ならついでにこっちも貰ってくれ」
「なんだよ、これ」
「帰省してたって言ったろ? 俺からの土産だよ。せっかく会いに行く用事があるんだから、南雲の分も用意したんだ」
「……おまえ、もしかして良いヤツなのか?」
もしかしてだと?
むしろ今までの流れでそれ以外の評価あるか?
「そうだよ。だから変態とかいう誤解は止めてくれよな」
事実無根過ぎるから。
いや、仮にそう思っていたとしても心の中に秘めておいて欲しい。さっきみたいに教室の中で言われると、またあらぬ誤解を受けてしまう。風評被害をばら撒くのはゼクスだけでお腹いっぱいだ。ああ電波も居ましたね……。
「……おまえ、あたしを見てもビビんないのか?」
「え? んー……」
そういや見た目でよく誤解されて避けられてた、って叶さん言ってたな。
俺は改めて、爪先から天辺まで南雲の容姿を観察する。
制服はクラフトの物ではなく昭和の遺物のように真っ黒なセーラー服で、
やや緩めの胸元と、そこから伸びる首、顔以外に肌の露出は一切なく、絹糸のような銀色をした髪と雪のように白い肌が、白と黒のコントラストを見事に演出している。
睨みつけるような赤い瞳は、たぶんこれ意識してるんじゃなくて素で目付きが悪いだけっぽい。
ああ、兎だこれ。
「いや、別に?」
まあ服装は完全にスケバンだし、本人のガラが悪いのも確かだが……それと正反対なエピソードとか色々聞いているし、俺としてはそういった感情はまったく起きない。
「だって、クラフトの制服着んのが恥ずかしくてそんな恰好してんだろ? 可愛い理由じゃねえか。まあ身長があと40cmくらい高かったら怖かったかもしれんけど」
そう。何より小さい。流石に電波よりは大きいけど、見たところルクルと同じくらいの身長しかなさそうだし、この体格の女の子を怖がれというのは俺からすれば無理がある。
「ちょっと待った」
「おう」
「今なんつった?」
「あと40cmデカかったら怖かったかもしれん?」
180を超えるタッパでその服装と髪色は普通に怖いと思うから、中和するためにヨーヨーとか武器にして欲しい。でも現実はチビだし理由も知ってるし、うん。
やっぱり、恐がる要素は皆無だと思う。
ただ話し方に棘があるというか、ぶっきらぼうな印象は受けるので、初対面とかちゃんと関わっていない女の子からしたら敬遠されてもおかしくないだろう。あと、いざ喋りかけてみても素で“あん?”とか返しそうだし。というか今日俺が教室で声掛けた時がそうだったし。
そこから尾ひれがついて怖がられるなんて話に飛躍したんだろう。人の噂なんて適当なもんだからな。俺も昨日、それを身をもって知った。
「その前だよ」
「前? クラフトの服着んのが恥ずかしいって話か?」
「そう、それ」
「それがどうかしたのか?」
「なんで、おまえが、そんなこと、知ってんだ?」
「叶さんから聞いた以外ないだろ」
「なんで?」
話が堂々巡りしてるんだが。壊れたレコードかよ。
あと南雲、今度こそ眼が怖い。話し方もなんか怖い。
仕方ない、一応フォローしておくか。
「そう怒ってやるなよ。その人形だって恥ずかしくて買えないおまえの代わりにって買ってくれたんだから、今時いいお姉ちゃんじゃないか」
「あの野郎おおおおおおおおおお!!」
今度こそキレた。
ちなみに途中で“あれ、これ言わない方がよかったんじゃない?”と一瞬思ったけど、今更途中で止める方がアレかなと思って走り抜けた結果がこれだよ。
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