第43話 ひとりでできるもん!
昼食開けの五時限目。
どうなるんだろうと思っていた体育の時間がいよいよやって来た。
この授業は二時限分のコマを使い、別のクラスと合同で行われるらしい。ちなみに相手は月によって違うとのこと。
幸か不幸か初月は真露と桃谷の居るクラスが相手で、知り合いが居ることに安堵しつつ俺は体操着を取ってグラウンドへ向かう。
昨日ゼクスと会った時は暗くてわからなかったが、グランドはどうやらあのスタジアムを超えた向こう側にあるらしく、食堂との位置関係的にほとんどとんぼ返りするカタチになった
地図の場所もルクルが教えてくれたし、あの先生そういう説明一切してくれなかったんだよなあ……。
グラウンド集合ってことは今日の内容は野球とかサッカーかな。いや、野球は女子校だとソフトボールになるのか?
いつも思うんだけど、男子に比べて手のひらが小さい女子がよくあんなでけえボールをポンポン投げられるよな。
電波とか掴めるかどうかも怪しいだろ……なんて失礼なことを考えながら隣を歩く電波の頭を見る。
顔ではなく頭である。身長差がありすぎて横顔は見えず、つむじが視界に入る。
ちなみにその電波だが、飯を食う時に体操着を持って出ていたらしいので完全に付き合わせてしまったカタチである。褒美として今度ピルクルを奢ってやろう。
「みらいちゃ~ん!」
グラウンドまで行くと、目ざとく俺を見つけた真露が名前を呼びながら駆け寄って来た。目立って仕方ないけどあいつに関してはもう諦めてる。
「も~、みらいちゃん遅いよ~」
「間に合ったんだからいいじゃねえか。ところで真露、先生どこに居るかわかるか?」
「あっち~」
真露が指す先には、頭一つどころか三つ分くらい飛びぬけたジャージ姿の女性が居た。
でけえ。身長だけじゃなく、隆起した筋肉が服の上からでもよくわかる。
あれは教師なのか? 女子レスラーの間違いじゃないのか。殴り合っても普通に負けそうだ。
「真露、電波、また後でな」
そんなゴリラのような先生に近づいて行く。
「おはようございまーす」
「ん……おー、君が噂の倉井くんか、おはよう」
「おはようございます。どこで着替えりゃいいすかね」
女子校に男子更衣室とかあるわけないし、さりとて女子更衣室で着替えるなんて論外だ。
俺は別に見られても構わないが向こうもそう思うとは限らないし、セクハラ扱いされたらたまったもんじゃない。
教室で着替えてくればよかったと今になって気付いたが、完全に後の祭りである。
まあ、そうすると他の生徒が全員出払うまで着替えられないので、できればこの近くの空いた部屋を使わせてもらえるとありがたいんだが。
「そうだなあ……次までになにか考えておくから、今日のところはどこか適当な物陰で頼むよ」
「うっす」
近すぎてもアレだしあの建物でいいか。
……いや待てよ、まさか先客が居たりしないよな。
実は性別を隠して通ってる生徒が女子更衣室で着替えるわけにもいかずあそこでこっそり着替えてるとか、そういうの。
……ん?
女子校で性別偽ってんなら男だし見ても問題ないじゃん。むしろ仲間が増えて嬉しいまであるじゃないか。
「……アホか俺は」
そんなことあるわけねえよ。
うん。更衣室があるのにわざわざ外で着替える女子も居るわけないし、警戒するだけ時間の無駄ってやつだ。
俺はその建物、用具室の角を曲がり裏手に回った。
荷物を下ろして上着を脱ぐ。
「おま、おまえっ、突然脱ぐとか変態か!?」
「え?」
声がした方を見ると、着替え中ではなかったが、いわゆるうんこ座りのヤンキーが居た。この学園に来てから初めて見る人種である。
まだ上半身しか露出してないしそこまで言わなくてもいいと思うんだけど。
「あんた誰だ?」
「そりゃこっちの台詞だよ! おまえこそ誰だ!? つーかなんで男が居んだよ!」
「誰だと言われると高等部の一年だけど、お嬢ちゃ……あんたは?」
危ない危ない、身長で子供扱いしそうになったぜ。電波の時と同じ過ちを繰り返すところだった。
今の時間にグラウンドに居るんだから当然同級生だよな。教室で見た覚えがないから真露のクラスメイトだろう。
「……
「間違って女子校に入学しちまったからだけど、聞いてない?」
「知らねーよ! つーかなにをどう間違えば男が女子校に入れるんだ!?」
まっまくもって正論である。
というか学園側で周知してたわけじゃないのか、皆俺のこと知ってるからてっきりそうなんだと思ってたよ。よく今まで不審者扱いされて悲鳴とかあげられてなかったな俺。
「南雲か。俺は倉井未来だ。俺は着替えに来たんだけど、南雲はこんなところでなにやってんだ?」
「見てわかんないか?」
「あー……タバコは止めといた方がいいと思うぞ、ここそういうの厳しそうだし」
停学か退学かは知んないけどルクルの話だとずいぶん滅茶苦茶な学園長らしいし、そうでなくても喫煙は身体に悪い。
「ヤニなんてどこに持ってんだよバカ。サボってんだよ」
そう言って手をぷらぷらさせ無手アピールをする南雲。
「サボんのも大概だと思うぞ。あとパンツ見える」
「はあ!? あっち向いとくからとっとと着替えて行っちまえ!」
おお余計な一言だった。
「わーったよ、邪魔して悪かったな」
「みらいちゃんまだ〜? 授業始まっちゃうよ〜」
なかなか戻らない俺を見かねて、真露が迎えに来てしまった。
「一人でお着替えできる〜?」
「俺に対する風評被害がマッハだからおまえはそれ以上口を開くなよ」
他の誰かに聞かれてねえだろうな?
というか俺がお前に着替えを手伝ってもらったことが一度でもあったか?
いや有った気がするわ風邪ひいた時とか。その節はお世話になりました。
「あ、そうだ南雲」
「ああん?」
「おまえ、あいつがこっち来る前に逃げといた方がいいぞ。捕食されるから」
「はあ?」
まあ、そう言っても意味わかんねえよな。でも警告したからあとはしーらないっと……待った今ズボン下ろしたら俺も変に誤解されないか? そう気付いたのは制服から足を抜いた後で、ドンピシャなタイミングで鼻歌を歌いながら真露が現れた。
あいつの眼には女の子の前でズボンを下ろしている変態の姿が映っているだろう。
「待て真露、誤解だ」
「あーん? また誰か来たのかよ……」
真露がびっくりして固まっているうちに履き替えてしまおう。よしオッケーいつでも行ける。
ダッシュして建物の反対側を回ってグラウンドに戻り、再起動して追いかけてくる真露から全力で逃げる。
「おー……あいつら元気だな。指示もしてないのにランニングなんて……」
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