第38話 なんか本当に父親みたいなこと考えてる気がする。
「リアクション芸人……」
俺の言葉にががーんとショックを受ける電波。
そんな落ち込んだ電波の空気を察してか否か、真露の明るい声がそれを払拭するように響いた。
「みらいちゃん! この子名前はなんてゆーの?」
「藤木電波。っ」
「ふじっ!? ちょっとあなた、言いながら自分で笑ってるじゃない!」
「わははははは!」
ちくしょう、藤木弄りは自爆天丼だって自覚していたはずなのにまたやってしまった。
一転してぷんすかと怒る電波。本人に自覚はないんだろうが、そんな風にころころ表情が変わるところこそ俺にリアクション芸人と称される所以なのだ。
いじめっ子の理屈みたいでアレだが、弄られたくないのならそうやって一々反応するのを止めて貰いたい。俺は可愛がりたいだけなんだよ……ってこの言い方だとなんか余計にアレだな。
ともかく、本格的に拗ねてしまう前にそろそろ笑うのを
「いやーすまんすまん。ごめんな?」
「もう、しょうがないわね……」
まだむくれてはいるが、一応許してくれるらしい。
すぐネガティブになる癖は直した方がいいと思うが、そこから切り替えて立ち直るまでの早さは電波の美点だと思う。
チョロすぎていつか悪いやつに騙されるんじゃないかと不安になってくるが。
「電波ちゃん、よろしくね!」
「え、あ、はい。でも、あの、わたし藤木じゃなくて鈴木なんです、ごめんなさい……」
笑顔で電波の手を取ってぶんぶんと振る真露だが、そのテンションに付いていけない電波はヤンキーに絡まれた中学生かってくらいどもりまくっている。
見ていて気の毒なくらいうろたえている電波の様子に、俺はそろそろ止めた方がいいかなとも一瞬思ったが、もう少し様子を見ることにした。
それでも真露ならなんとかするんじゃないか、という経験に
「鈴木、電波ちゃん?」
訂正する言葉にきょとんとしながらも、電波のフルネームを復唱する真露。
「は、はい。よろしくおねがいします……」
「……うん、覚えた! わたしは笹倉真露だよ、電波ちゃんも覚えてね!」
「笹倉さん……」
覚えるもなにも、これだけぐいぐい来るようなやつを忘れる方が難しいと思うが。口にするのは野暮ってもんだな。
真露の距離感は一歩間違うまでもなく直球でうざったいもののはずなのに、こいつがやると不思議とそう感じさせない。それが電波にも通じるかどうかは正直賭けだったけど、この様子ならいつも通り大丈夫そうかな?
「電波、こいつは俺の幼馴染なんだ。仲良くしてやってくれ」
「はえ~、幼馴染……いいなあ」
三星さんや七生といい、この学園の連中は幼馴染という概念をなんだと思っているんだ。おっぱいか?
俺におっぱいはないぞ。君達にない物は付いてるが。
「真露さん」
それまで黙っていた女の子が口を開いた。
おっぱいと歩いていた人だ。
「あっ! モモちゃん紹介するね。わたしの幼馴染で、一緒にこの学園に入学して来たみらいちゃんだよ!」
「紹介するならせめてフルネームでやれよ」
「未来ちゃ……さん? 噂の殿方ですわね。初めまして、真露さんのルームメイトの
挨拶と共にぺこりと頭を下げる桃谷さん。
なんというか、凄くお嬢様然とした人だ。
話ぶりや所作といい、総合的な雰囲気がとても華やかでそれっぽい。
なにより縦ロールとか現実でやってる人を初めて見た。しかもそれが不自然なものに見えず、よく似合っているのは流石クラフトの生徒と言うべきか。
それはそうと、縦ロールってクロワッサンにしか見えないよね。
「どうも、倉」
「そうそう! モモちゃんとはね~、ルームメイトなんだよ~!」
こやつ人が名乗ろうとしたところを……。
ちょっと黙ってようね、と真露を持ち上げて横に退ける。真露は邪魔だと言われているのに、たかいたかいだー! と喜んでいた。
「倉井未来だ、よろしく。御覧の通りアレな幼馴染だけど仲良くしてやってくれ。ついでに俺ともよろしくして貰えたらありがたい」
「ふふ、初日で慣れましたわ。ええ、こちらこそどうぞよろしくしお願いいたします。とりあえずお近づきの印に飴ちゃんをどうぞ」
「え? ああ、どうも」
唐突にべっこう飴を貰ったので舐める。うまい。
なんだろう、ですわ口調がお嬢様じゃなくて関西弁に思えてきた。クロワッサンもお嬢様じゃなくて大阪のおばちゃん特有の派手な髪型に。
「散々な言われようだぞ、真露」
「いーのいーの。それで二人が仲良くなってくれるならなんでもいーの!」
「こいつ……聖人か……?」
ルクルと真露が話している。その様子に桃谷が珍しいものを見たような顔をする。
「どうした?」
「鹿倉衣さんまで篭絡するとは、さすが真露さんだと……いえ、貴方も彼女と親しいようでしたけど」
「ん? ああ、俺はルクルと寮で同室だから、それでだな。真露は……もう体感したんだろうけど、ぐいぐい行くやつだから、うん」
「ええ、それはもう。初日で存分に堪能いたしましたわ……同室?」
そこで突然、電波に服の裾を引っ張られた。どうした? のけ者にされてるとでも思って寂しくなったのか? と俺がそっちに意識を向けると、話をしていた桃谷も釣られて同じように電波を見た。
「鈴木さんでしたわよね。初めまして。鈴木さんも、どうぞこれを」
「!?」
なぜか今日一番のショックを受けた顔をする電波だが、それでも差し出された飴はちゃっかり受け取っていた。そして呆然としていてもちゃんとお礼を言うのを忘れない。偉い。
「どうした?」
「あえ」
時計塔を指さす電波。貰った飴をさっそく転がしているせいで舌足らずな発音となっているが、その先を見た瞬間に言いたいことは理解できた。
「時間やっべえじゃん」
昨日に続いて今日もかよ。
よく見りゃさっきまではたくさん居た生徒の数もいつの間にか少なくなっている。先の方にはまだ人影があるが、それもまばらで。
この距離に居るのは俺達六人だけだ。
「ゆっくり話しすぎてたみたいだな」
「そのようですわね」
「急ぐか?」
俺と同じく時計塔を確認した桃谷が同意し、真露に背中から抱きしめられたルクルが鬱陶しそうにしながら言う。
「そうだな、少し早足で行くか」
俺達六人は早足で体育館へと向かい、なんとか遅刻は免れたが結構ギリギリだったのでばっちり注目は浴びた。
更に言うと体育館に入ってからそれぞれのクラスへと別れる時、真露が目立つのもお構いなしにばいばーいみらいちゃん!と大声を出しながら手を振ったのでめちゃくちゃ恥ずかしかった。
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