第19話 意外とみみっち……すみません、なんでありません。

 バカボンのパパみたいな事を言って、にかっと笑う電波。

 俺はそれを見て、やっぱりこいつには暗い表情よりもこういう顔の方が似合っているよな、と改めて思った。

 ……それはそれとして、この空気をどうしよう。

 熱血モノの学園ドラマみたいなことをやってしまったと、今更ながら恥ずかしくなってきた。

 知り合って三十分と経っていない女の子相手に、俺は何をやっているんだ?

 くそう、本来あんなのは俺のキャラじゃないんだ。別に後悔はしてないけど、顔が赤くなっているのが自分でもよくわかる。

 先生。

 もう一度自爆ボタンを押してこの空気をどうにかお願いします。



 断頭台へと歩く死刑囚のような心持こころもちで席へと向かう俺とは対照的に、電波の方は晴れやかな顔をして堂々と歩いていた。

 そんな風に抜群の注目を浴びたホームルームも終わり、一時間目が始まるまでの休み時間。

 この短い時間にせめて顔のほてりだけでも冷まさなければ、なんて机に突っ伏しながら考えている俺の前に、ルクルがやって来た。


「……。来たか、悪魔め」


 これ以上俺を辱めようというのか。

 貴様に人の心は無いのか。


「悪魔とはずいぶんな言い草だな」

「うっせえ。何が彼女は居ますかだ。つーか倉井くんってなんだよ、今までそんな呼び方した事なかっただろ」

「はっはっは」


 笑ってごまかせるとでも思ってるのか。


「まあ、そう怒るなよ。男のおまえにはピンとこないかもしれないが、年頃の女子連中は色恋沙汰といった話が大好物でな。数百人といる女子生徒の中にただ一人混じった男のおまえは、そういった意味でも注目の的だ。あの時私が言い出さなくともいずれみなの話題にあがっていただろう。その時遠くでこそこそと言われるのはおまえも嫌だろう? クラスの全員がおまえの話を聞いているタイミングでこなしておけば、詮索されることもなく後が楽だと思ってな」

「ルクル……」


 俺の事をそこまで考えて、そんな……。


「本音は?」

「面白いかなと」


 即答ゥ!



「まあ、その後の藤木……いや鈴木だったか……? を相手にした茶番は予想外だったが」

「藤木だ」


 鈴木よ! という幻聴が聴こえて来そうだな、なんて電波の方をちらっと見ると、がーんと効果音が付きそうな顔をしてこっちを見ていた。

 許せ電波、結構気に入っちゃったんだこれ。でも流石に三回目はしつこいし、あまり引っ張りすぎてもかわいそうだからそろそろ勘弁してやろう。


「……というのは冗談で、鈴木だよ。覚えてやってくれ。……ああ、そんで話があるんだけど、昼休みとか時間がある時にでもちょっといいか?」

「ごめんなさい。私、倉井くんの事はそういう風には……」

「はいはい」

「む……反応がつまらんぞ」

「そういう冗談はもっと神妙な顔で言いましょうね。ニヤけながら言っても意味ないから」


 はい。もう休み時間も終わるからとっとと席に戻ってちょうだいね? と手を振ると、ルクルはおとなしく自分の席に帰って行った。

 ……あれ? やけに素直だけど、ルクルのやつは何しに来たんだ? 俺の反応を見るためだけにか、だとしたら暇なやつだな。まあ、こっちも用事があったし丁度よかったからなんでもいいけど。


 その後、遠慮してか腫れ物扱いなのかはわからないが、七生や電波、その他クラスメイトから話しかけられることは一切なかった。

 目立つと嫌だな、なんて思っていたけど、これはこれでなんか寂しいな。

 かといって自分から話しかけに行くのはハードルが高すぎるから、出来ればルクルや七生の知り合いとかから交友関係を広げていきたい。

 ……なんて言うんだ? 女友達を紹介してくれっていうのは、何か意味合いがアレだよな。

 うん、ダメだ。これは考えても仕方がない。なるようになることを祈ろう。まあこれから一年間同じ教室で過ごしていくんだし、そんなに心配しなくても友達くらい自然と出来るさ多分。

 開き直ったところでタイミングよく鐘が鳴り、俺はそれらについて考えることを止めた。

 時期に先生も来るだろう。でもその前にと俺は立ち上がり、


「あの、ルクルさん?」

「どうした? もう授業が始まるぞ」

「すみません筆記用具余ってたら貸して頂けると……」

「消しゴムの角を使ったら泣くからな」

「ウッス」





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