第11話 お前もだけどな。


 意味がわからないんだろう、小首をかしげる真露。

 まあ俺の時もそんな反応だったし、女性に対する評価でおっさんなんてあんまり聞かないもんな。

 再び三星さんの方を見ると、視線に気付いた彼女は困ったように薄く笑った。


「むむむ。なんだか二人だけで通じてるような……むむむ……?」


 その様子を見て唸る真露。

 だがこれでもだいぶマイルドなのだ。おそらく三星さんも本当はセクハラオヤジと言いたかったに違いない。


「でもみらいちゃん、最初はもう辞める~なんて言ってたからどうなるかと思ったけど、いっぱいお友達できたんだね。良かったよ~」

「あー……まあな」


 確かに言われてみれば……いや三星さんと舞子さんは先輩だし、友達にカウントしてもいいのか?

 ルクルのヤツは……うん。悪友とかそういう言葉がぴったりそうだが。

 ともかく、確かに縁は色々と結ばれている。

 それが良いものだけじゃないのが問題だが……と俺は風呂場の一件を思い出す。


「それにしても、この学園ってかわいい子ばっかり居るよね! びっくりしたよ~」


 それは確かに。

 校門でルクルのヤツを初めて見た時も驚いたしな。

 女の子に見惚れたなんて何時ぶりだったろう。

 ……当人の性格を知った今となっては、絶対に知られるわけにいかないけど。


 それにクラスの連中なんかも、あまりじろじろ見るのもよくないかと思って俯瞰するようにしか眺めていないが、みんな結構可愛かったと思う。

 アウェー感が強すぎて目を合わせられなかっただけとも言えるが。“やだあの男こっち見てる、キモ”とか思われたら明日から学校行けねえもん俺。


 受験組であれなら、明日から合流するというエスカレーター組のお嬢様連中はどのレベルなんだろうか。

 三星さんは言うまでもなく、地味に舞子さんなんかも凄え美人だし。

 でも舞子さんは多分性格で十割くらい損して結婚できないタイプだと思う。それで三星さんの部屋に転がり込んで道連れにするイメージ。

 さっき1度会ったきりだけど、俺の中でのあの人はもうそんな感じの人として固定されてしまっている。

 平均がこのレベルだったら、卒業後のハードルが大変な事になってしまうが……。

 最後に風呂場で会った子は……うん。顔は覚えてない、でも身体は覚えてる。ごめん。


 しかし女子がみんな可愛くて男は自分一人とか、ひと昔前のラノベみたいな話だな。これが本当に物語の中の話なら登場人物全員俺に惚れるんだろうけど、そんな話が現実にあるわけもなし。手を出せないハーレムとか地獄すぎるんじゃないか?


「みらいちゃん、なに考えてるの?」

「これからの人生について少々」



「遅いですね、舞子。近くに居るって言っていたのに……」

「なにかあったんですかね、電話も突然切れたみたいですし」

「いえ、あれは……」


「チーッス! 未来やるじゃねぇか、いきなり七生の風呂覗いたんだってな!」


 そこで真露と同じく、乱暴に扉を開けて飛び込んで来る舞子さん。

 今は俺以外に患者が居ないから良いが、真露も舞子さんも他に人が居る可能性を考えていないんだろうか。

 あと兆番と戸当たりの寿命がマッハだと思うので、もう少し労ってあげて欲しい。


「いやー、ちっと遅れちまったぜ。こいつが来たくないって言うもんだからサァ」


 舞子さんは誰かを連れてきているらしく、扉を閉めずにずんずんとベッドの方まで歩いてくる。


「早く来いよー」


 そんな彼女とは対照的に、ようやく入口の向こうから姿を現したその誰かの歩みは遅い。


「そりゃお互い事故とはいえ、気まずいから仕方ないでしょうよ」


 少女の顔を見、声を聴き。

 俺は一発でそいつが誰なのかを思い出した。


「桐生七生……さん」


 マジか。いやマジなのか。

 連れて来た本人と、状況がわかっていない真露以外の三人の間に気まずい空気が流れる。


「おうおうどーした二人とも。せっかく連れて来てやったのによー」


 舞子さんの言葉に、三星さんはどこか遠くを見るような目で天井を見上げていた。

 寮に帰ったらセッティングして、という話をしていたばかりだし、気持ちはよくわかる。

 俺も出来れば彼方へと旅立ってしまいたい。

 三星さんが電話の最後で慌て、言い淀んでいたのはこれだな……。


「な、な、未来」

「なんすか?」


 パイプ椅子にドカッと座り込んだ舞子さんは俺の耳元に顔を寄せ、真露の方を指さし。

 

「あいつ胸めっちゃデカくね?」

「ちょっと黙ってて貰えます?」

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