第7話 人形さん。
終始テンションの高い舞子さんを残して、俺と三星さんは部屋を出た。
「舞子はああ言ってましたけど、二人の相性が悪いだけで、ちゃんと良い子ですから安心してくださいね」
部屋の前に付いた三星さんはさっきと同じく、こんこんこんとノックをした。
舞子さんの言っていた通り今度はちゃんと部屋に居るみたいで、中から返事が聴こえてきた。
「ルクルさん、三星です」
「ああ今開ける。ちょっと待ってくれ」
ん? どっかで聴いたことのある声だな。
そう思ってる間にドアは開かれ、鹿倉衣ルクルという少女が部屋の中から現れた。
「よう」
「人形さんって……やっぱおまえかよ」
薄々そんな気はしていたが……鹿倉衣ルクルというのは、今朝校門で出会った少女らしい。
まあ確かに俺も、こいつを一言で表すなら人形という言葉を選ぶだろう。
性格はともかく、見た目の印象としては妥当なところだし。
「あら、お二人は知り合いでしたか」
「知り合いって程でもないですけど……今朝ちょっと」
「そうですか。あ……舞子からルクルさんが私を探していると伺ったのですが、ご用はなんでしょうか?」
「いや、こいつがいつ頃部屋に来るのかと思ってな。確認したかっただけだ。用という程でもない」
「そうですか、それならちょうど良かったですね。未来さんもルクルさんも、今日から同じ部屋ですから仲良くしてくださいね」
「はい」
「大丈夫だ、多分な」
「ふふ。それではしばらくしたら寮の案内に参りますので、しばらく休んでいてくださいね。初めての学園で疲れたでしょうから」
「なにからなにまでありがとうございます、三星さん」
それでは、と三星さんは帰って行った。
残された俺と鹿倉衣ルクルは部屋に入る。
そこは十五畳くらいの部屋で、中心を境目に半分くらいのスペースが空いていた。
その俺のために空けられているのであろうスペースに鞄を置いて腰を下ろす。
着替えなどのかさばる物は本格的に生活を始める今日、俺が居る時間帯に学園まで届くように手配しているので、今の荷物は持っていた鞄だけだ。
ベットやタンスなどの家具は備え付けであるみたいで、新しく家財を買う必要はなさそうだと一安心。
ちなみに元々俺は自分の物というのをほとんど持たない人間なので、送られてくる荷物も段ボール二つ分しかなく、片付けに時間を取られることもない。
部屋を軽く見渡した後、俺は改めて鹿倉衣ルクルに話しかける。
「よろしく」
「あぁ、よろしく」
……気まずい。今朝は結構喋るよな、なんて言ったが、話が弾むタイプではないみたいだし。
俺も饒舌な方ではないので会話は長く続かず、短い挨拶の後早々に途切れた。
けど……このままの雰囲気だとマズイよな。同じ部屋に住むんだし、少しでも打ち解けておかないと。
「あんたが鹿倉衣ルクルなんだな。俺は……まあ知ってるみたいだけど一応自己紹介だ。名前は倉井未来で、見ての通り性別は男。いつまで居るかはわかんないが……これから同じ部屋なんだ、思うところはあんだろうがよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
「さっそくだけど、まずはこの部屋のルールを決めないか?」
「ルール?」
「ああ。まずは部屋割り……っつうのかな、お互いの生活スペースの境界線はドアでいいか?」
ただでさえ今日知り合ったばっかりの他人同士が住むんだ。しかも俺達の場合、性別が違うなんておまけも付いてやがる。
ラッキースケベなんて社会的死に直結しかねないし、取り決めは細かくしておいて困る事はないだろう。
ハニートラップなんて仕掛けてくるようなヤツには見えないが、何か事故があった時に俺の逃げ道を作るためにも。
「ああ、こちらもそのつもりで部屋を開けておいたからな」
「やっぱりか……悪いな、後から押しかけた身なのに。部屋にもなるべく帰らねぇつもりだから、あんたはこれまで通りで居てくれ」
「ルクルだ」
「ん?」
「ルクルと呼べ。あんたと呼ばれるのはあまり好きではない」
「そうか……じゃあ俺のことも未来で構わないぜ」
「元からそうさせてもらうつもりさ……それと、ここはお前の部屋でもあるんだから遠慮することはないぞ。ルールも生活スペースの線引きだけで良いだろう。堅苦しいのは好かん」
へぇ……意外と良いやつかもしれないな。
「自慰さえ控えてくれればな」
にやりと笑って毒を吐くルクル。
ああ、やっぱこいつ苦手だわ。
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