第6話 意外とバイオレンス。
「ほうほう……いやマジに男だなあ」
現れた三星さんのルームメイトにかいつまんで事情を説明した後、俺はなぜか全身を舐め回すように見られていた。
「この学園に長く居ると同年代の男の方が珍しいので、悪気はないはずですから許してあげてくださいね」
呆れたように笑う三星さん。
だけど“はず”を強調しているのであまりフォローになっていない気が。
「大丈夫で……ぅあっ!」
「ちょ……舞子どこ触ってるのっ!?」
「いやあ……本当にちんちん付いてるのかなぁって」
「付いてるのかなあ、って……! 貴女ほんとになにやってるのっ!? ご、ごめんなさい未来さんっ」
「い、いえ、三星さんが謝る事じゃ……でも、次からは触る前に一言言って欲しいです……」
「言ったら触って良いのか! じゃあ触るっあってぇえぁあ」
―――瞬間。近くにあった花瓶を掴み取り、六車さんの頭をカチ割った三星さん。
豪快に割れはしたものの水は入っていなかったらしく、床が濡れることはなかった。……いや、そういう問題じゃないけど。
突然の出来事で逆に冷静になった俺は、他人事のようにそんなことを考えていた。
「っはぁ、はぁぅ……」
鈍器で人を殴る感触に酔いしれているのか、三星さんは自分の手を見つめながら肩で息をしている。
にしても綺麗に入ってたな今の。サスペンスなら完全に死んでるぜ?
「おごごごごごごごごごご」
「わ、わわ私ってばなんてことを……」
「え?」
躊躇無くヤったから、結構あることなのかなって思ったんだけど……そうでもないのか。
「ふ、普段はこんなことしませんよぅ! 舞子が変なことするから……っ! というより、未来さんも次ってなんですか次ってっ!?」
その割には、手慣れた動きに思えましたが。
「おごごごごごごごごごごご……」
「ジョークですよジョーク。それより、これは放っといて大丈夫なんですか?」
「あ、それは大丈夫です。多分、しばらくすれば回復するかと……」
嘘だろ?
いや、でも見たところ血も出て無いようだし……頭は血が出ない方が危ないんだったかな? まあ三星さんが大丈夫ってんなら大丈夫なんだろう。
多分。
とりあえず、うずくまる六車さんは置いといて、二人で飛び散った破片を掃除する。
見落としがあれば足の裏を切るかもしれないので念入りに。
敷き物の毛が長く、細かい破片を探し出すのに時間を取ったが、花瓶自体のサイズがそんなに大きくなかったのもあって掃除は数分で終わった。
その頃には六車さんも回復したようで、頭を押さえながらも立ち上がっていた。
「いってえー……今のオレじゃなかったら大けがしてるぞ」
まあ普通なら血の海だろうな。というかこの人はなんで平気なんだ?
「まぁいいけどさぁ」
いいのかよ。基準がわかんねえ。
「えーと……六車先輩、でしたっけ」
「おう。改めて自己紹介させてもらうぜ、星座と同室の
そこで区切って、六車さ……この人はなんか弄り、いや、親しみ易そうなので下の名前で呼ぼう。
舞子さんは改めて三星さんの方に向き直る。
「いやー、寮長になった途端部屋に男を連れ込むなんて星座もなかなかヤいやごめんなんもねっす」
三星さんの手が近くの花瓶に向けてピクリと動いたのが見えたのだろう、言葉を引っ込める舞子さん。
さっきの一発が初めてって絶対嘘だろこの人。
「ま、よろしく頼むぜ。せっかく同じ寮に住むんだからな、何かわかんねーことがあったらオレでも星座でも遠慮なく頼ってくれ。他の奴らも一部を覗いて良いやつらだからな」
「はい、何かあったらお願いします」
「おうおう、後輩は素直じゃねーとなぁ……あ、星座、鹿倉衣のやろーが探してたぜ」
「ルクルさんが?」
「ルクルっていうと、俺のルームメイトの人ですね」
「げぇっ!? お前あんなのと同じ部屋なのかよ」
「あ、あんなのって……舞子、そんな言い方よくないよ。未来さんも不安になっちゃうし」
「あんなのって……悪い子なんですか?」
人形みたいだと三星さんは言っていたが……。
三星さんと舞子さんでそんなにも印象が違うということは、相手によって露骨に態度を変える子だとか?
やばいな。もしヤンキーなら、自慢じゃないが俺との相性は最悪だぞ。
「んー。まあ悪いやつではないんだがなあ。邪悪ではあるけど。……残念だったな少年、君の学園生活は今暗黒色に決まった。まー辛くなったら俺と星座が癒してやっから元気に生きてくれよな!」
なんまんだぶなんまんだぶと両手を合わせる舞子さん。
なんだその励ましは。
「そ、それでルクルさんはなんて?」
三星さんが話の流れを元に戻す。
「そこまでは聞いてねぇな。部屋に居ると思うから気になるなら会いに行ったら良んじゃね?」
「そうですね……それじゃあ、ちょうど良いので未来さんと一緒に行ってきますね」
「おう、いってらー。未来もまた遊びに来いよー、明日の放課後とか」
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