第5話 女子の部屋ってなんであんな良い匂いすんだろうな?
三星さんの部屋は三階にあるらしい。
三階へと続く階段は、一階へと続くそれとは逆方向、廊下を突き当りまで行かないとないらしく、また廊下を歩く。
「面倒な作りですね」
「最初はそうですね。でも、慣れると気になりませんよ」
「そういうもんですか」
「はい、そういうものです。ふふっ」
三階のちょうど真ん中の部屋が三星さんの部屋らしい。
というか、部屋の前まで来て思ったが……。
「あの、同室の人に許可は取らなくて良いんですか?」
「ええ。彼女はこの時間帯、学園の方に居るはずですから」
それに、彼女ならきっと歓迎してくれますよ。と三星さんの言葉は続いた。
かちゃりと扉を開き、中に招き入れられる。
女の子の部屋に入るのが初めてというわけではないが……こういうお嬢様っぽい人の部屋に入るのは初めてだから緊張する。どことなく良い匂いが漂ってる気もするし。
悟られないよう、静かに深呼吸する。他意はない。
「椅子にかけてお待ちください。今お茶を入れますね」
「ありがとうございます」
あまりじろじろ見るのは行儀が良いとは言えないが……ふむ。この可愛らしい部屋は三星さんの趣味か、あるいはまだ見ぬ同居人のものか。
「どうしました?」
「女の子らしい部屋だなぁと」
「まぁ」
くすくすと笑い、音もなく俺の前にカップが置かれる。
手際よくお茶を用意した三星さんは、照れたようにほほ笑んで対面の席に腰を下ろした。
お嬢様というイメージ通りで、ティーカップの中に入っているのは紅茶だ。
詳しくないから銘柄なんかはわからないけど、素人でもわかるくらい香りも良いしきっと高いんだろうな。
一礼してから口を付け、改めて彼女を見る。
校門であった少女が
「あの、そんなに見つめられると照れてしまいます……」
頬を桜色に染める三星さん。なんというか、アニメの中の乙女みたいな反応だ。
下手に反応するとお互い余計に恥ずかしくなりそうなので、違う話を振る。
「先輩の学年って三年生ですか?」
「あら、どうしてそう思います?」
「寮長ですし、こう、雰囲気が落ち着いているような……クラスの女子たちは女の子って感じなのに、先輩はお嬢様って感じで……ええと、すっげー偏見なんですけど、学校に馴染んでる感じがしまして」
「なるほど、正解です。ですが一年生でも、明日から合流する中等部の子達は結構落ち着いていると思いますよ」
「ああ、そういや今日いたのは俺みたいな外部からの生徒だけって言ってましたね」
両隣の席が空いていたから、左右をお嬢様に挟まれることになるんだよな。三星さんみたいに話しやすい人だと良いけど。
「そういえば、先輩、俺の―――」
「ストップですっ。変に畏まらないでくださいね。学年や性別は違えど、私達は同じ寮に住む学友なのですから」
「……む」
それは難しい。
「ええと……あんまり自信がないですが、なんとか」
「はい、お願いします。……あ、あと私のことは、できれば星座でお願いします。どうも先輩と呼ばれるのは慣れていなくて」
「いいんですか?」
「はい、是非。そのかわり私も、倉井さんのことを未来さんって呼ばせてもらいますね?」
「わかりました。ええと、俺の方から名前を呼び捨てにするのは流石にアレなんで、三星さんでもいいですか?」
「むぅ……わかりました、それで妥協しましょう」
入学早々呼び捨てする女の子なんて出来たら、真露に殺されてしまう。
「三星さん、俺のルームメイトはどんな人なんですか?」
「うーん………………」
あれ、すげえ長考に入ったぞ。そんなに面倒な奴なのか?
「お人形さんみたいな子、ですかね?」
なぜに疑問形?
でも、人形みたいに物静かってことだろうか。
そういえばその評価、今日どっかで聞いたような……。
まあ、答えにくいのなら無理に聞かない方がいいだろう。どうせ後になれば嫌でもわかるんだ。
「なら、三星さんと同室の方は?」
「おっさ……」
三星さんはそこまで口にして、続きを言い淀んだ。
ん?
おっさ?
なんて言いかけたんだ? 今。
「ええと……性格に難あり、ですね」
「うわ。ちなみに、どんな感じで?」
「スキンシップが過激と言いますか……むむむ」
顔を赤くする三星さん。
女の子が赤面するスキンシップと言うと……。
「突然身体を触られたり、私がシャワーを浴びている時に突然入ってきたりと……」
「ほうほう、それでそれで?」
「あとは、朝起きたら抱きまくら代わりに……ってなにを言わせるんですか」
え? 俺が怒られるところ? 今の。
結構ノリノリで話してくれてた気がするんだが。
「いえ、同じ屋根の下に住む者同士、どんな人が居るのか気になるのは人として当然ですよ。決して他意はありません」
「そ、そうですか……ごめんなさい、私、てっきりセクハラというものかと……」
自分のセクハラ発言で再び顔を赤くする三星さん。
お嬢様というのは純情な生き物らしい。今まで出会ったことのない人種だなと改めて思う。
「あ、でも流石に男の方にそんなことはしないと……思い…………ます」
何だろう今の間は。
まぁ、三星さんが今言った事は同性かつ同室だからこそであって、性別も部屋も違う俺には関係ないか。
決して残念がってはいない。
「うぇーい、ただいま星座ぁ…………んあ?」
しばらく雑談していると、ノックなしで玄関のドアが勢いよく開いた。
どうやらその同室の人が帰って来たようだが、長居し過ぎたかな。
「お、おおおおお?」
それは俺を指さしながら唸りをあげる。
「星座がオレ以外の男を連れ込んでる……だと?」
「……アレです」
「アレですか……」
玄関で放心しているそれを見ながら、俺と三星さんはそろって言った。
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