第3話 Q.それでいいのかお嬢様学校 A.それでいいのだ

「で、どうするんだ? 結局辞めてしまうのか?」

「……おまえさ、結構喋るんだな。見た目と違って」

「……む。それはどういう意味だ?」

「いや、無口そうっつーかクールそうっつーか、見た目とイメージが違うなって。口が悪そうなのはまんまだが」

「失礼な奴だな……口が悪いのはどちらだ? それに同い年なんだ、変に気を使う必要もないだろう」

「まあそうだけどよ。……質問の答えだけど、あいつにああ言った手前、一度教室に戻ってみるさ。とりあえずは今後の身の振り方ってやつを考え直してみるよ」


 真露にも言った手前、とりあえずな。

 最低でも再考したという事実がなければ……あいつに嘘を付いたら後が怖いからな。


「そうか。まあ頑張れ」

「ありがとよ。そんじゃ縁があったらまたな、お人形さん」


 自分で口に出してみて、この呼び方はこいつにぴったりだな、と改めて思った。

 最後に見えた少女の表情は、さっき見た時のように少し歪んでいた。



 教室に入った俺を待ち構えていたのは、やはり好奇の視線だった。

 一斉に向けられたそれに一瞬たじろいだが、自分の立ち位置は理解出来てるからそれほどの衝撃はない。

 それに校門のあいつも有名人って言ってたしな、と自分を納得させる。


「えーと。倉井くん、だったよね。とりあえず座って。窓際から二つ、後ろから三つ目のトコね」


 指された席に座る。

 左右の席が空席だったので、えっもしかして俺干された? とか一瞬考えたけど、普通に考えれば最初の席順は出席番号なりで決められてるだろうしそれはないかと自己完結。


 というか、よく見るとところどころ席が空いている。

 ……ああそうか、これが真露が言っていたエスカレーター組の席だな。


 それからしばらく、学園に関しての説明を受ける。

 担任によると、この学園の授業は一日に六時限目までで、一つの授業が四十五分と少し短めだ。


 放課後が訪れるのが他の学校より少し早いけど、その分生徒の自主性を求めているらしい。

 まあ、俺は勉強なんて授業以外でする気はあんまりないから関係ないけど。

 レベルの高い学校だって聞いていたけど、学力的には問題なくやっていけそうだな。


 今日は正式に授業が始まる前なので、授業と言っても校則や授業の進め方の説明だけしかなく、午前中で全て終わった。

 ちなみに、クラスの自己紹介らしきものを中学生組が合流する明日行うらしい。

 学園内の施設に関しては、初回利用時につど案内されるとのこと。

 教会なんかも有ったし、礼拝の時間なんかもあるのだろうか?


「疲れた。この上なく疲れた」


 遠巻きに見たり見られたりで、直接コミュニケーションを取ったわけではないが……三人集まれば姦しいというが、女子ばかり十三人集まったらあんな風になるのか。


 男に生まれてよかったかもしれない……と俺は産まれて初めて思った。

 自分が女子だったらと仮定しても、あの輪に入って行くのはちょっと無理だ。

 すこし前までは女に生まれて結婚すれば働かなくていいから幸せだろうなあ、とか呑気なことを考えてたはずなのに。


 ……やっていく気はあんまりないけど、こんなんでやっていけるのか? 俺。


 しかし、何も言われず授業に参加できたってことは、学園側として俺をどうこうするつもりはないということだろうか……?


 まぁ考えても仕方ないし、後で先生に確認しておこう。


 ……ということでさっそく、放課後。

 俺の処遇を尋ねに職員室まで行ったが、責任者らしき先生に『ええんとちゃう?』とあっさり言われてしまった。


 それでいいのかお嬢様学校。

 いや本当にそれでいいのかあんたら。


 拍子抜けした感は否めないが、問題がないのなら真露に言った手前しばらくは通うしかないだろう。

 馴染めなかったらその時また考えよう。

 きちんと考えた末に辞めると言えば、真露も諦めるだろう。

 諦めるよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る