さつまいも祭り

 武士が、山ほどさつまいもを貰ってきた。


 なんでも、散歩している途中に出会ったお婆さんがくれたらしい。道に迷っていたそうで、武士が一生懸命案内しようと頑張った結果、ようやく目的地にたどり着いた時は確かな絆が芽生えていたという。そして、さつまいもをいただいた。

 尋常じゃない量を、いただいた。


「今宵はさつまいも祭り」


 オーケー、任せろ。そういう理由で、私はさつまいも料理を作りまくることになったのである。

 まずはベーシックにさつまいもごはんだ。固いさつまいもを頑張って切り、水にさらす。あまりにも固かったら、濡らしたキッチンペーパーくるんでラップに包んで電子レンジで1分ほどチンしてあげたら、柔くなって切りやすいよ。そんで5分ほど水にさらしたら、米を研いで塩を投入した炊飯器にぶちこむ。

 普通に炊く。その隙に、別の料理を作る。

 鶏肉とさつまいもの甘辛炒めである。さつまいもは水にさらした後で、三十秒ぐらいチンする。それを片栗粉まぶした鶏肉と一緒に炒めるのだ。醤油と砂糖とみりんと酒を上手いこと混ぜたやつは最強である。

 あとは、さつまいものサラダとか。お湯にぶち込んで柔らかくしたさつまいもを、マヨネーズと砂糖、砕いたゆで卵と一緒に混ぜる。きゅうりや人参も混ぜたらいい気がするけど、今日は面倒くさいや。また今度ね。

 さつまいもの味噌汁も付けようとしたけど、このあたりで体力が尽きた。つかもう十分だろう。

 かくしてさつまいもと格闘すること一時間。食卓にて、おっそろしい物量のさつまいも祭りが開催されたのである。


「……大家殿は加減という言葉を知らんのか?」


 生憎と習ってきてないねぇ。


「だが美味そうである! いざ、いただきます!」


 そう、「いざ」とでも言わないと腹の決まらない量なのである。いやあ、まさかここまでの量になるとはなぁ。


 それでも武士はせっせといい食べっぷりを見せ、みるみるうちに料理が減っていく。鶏の甘辛炒めはちょっと味が濃かったかな? 反省。ちなみに私はちょっと食べてすぐお腹いっぱいになってしまい、寝転んでテレビを見ていた。


「ぬふふん、本日の大家殿は、おなご並の食の細さであるな」


 やっぱ歳には勝てんよ。ところでおなごは案外食うぞ。私が高校生の時、からあげ出るたび姉と戦ってたもん。


「言われてみれば母も……」


 そちらも心当たりがあるようで何よりだ。

 だが武士も、数分後には私と同じく床に寝転んでいた。さつまいも料理はだいぶ減っていたものの、まだ十分な量が残っている。


「負けた……」


 物悲しそうな目で天井を見上げる武士が呟く。


「某は忘れてしまっていたのだ……芋の腹持ちの良さを……」


 ところで冷蔵庫には、まだ4個のでっけぇさつまいもが眠っているのである。

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