鯉のぼり
ゴールデンウィークがもう後半って信じられない。むしろ前半なんてあったっけ? 私には何も分からない。
とにかく、今日は五月四日みどりの日。明日は武士……じゃなかったこどもの日だ。
「♪屋根よーりーたーかーきー、われのーまーげー」
はためく鯉のぼりを見ながら、だいぶ違う歌を歌っている。ちょっと遠くのスーパーに行った帰り、鯉のぼりが何匹もパタパタ泳いでいる道に出た。集まった子供たちがピョンピョンと跳ね、なんとか尾びれを掴めないか苦心している。おおむね平和な光景だ。その中にちょんまげ男が混ざっているのを除けば。
不審者として通報される前に、水分補給しておこう。割とちょうどいい陽気だけれど、歩くと汗ばむものである。近くの公園にて木陰を探し、さっき自販機で買ったリポDを一気に流し込み――
「ぬぬぬうん! 某とアヤコ殿はちょっと尾びれに触ってみたかっただけである! 悪いことをしようとは決して思っておらぬゆえー!」
ばっちりむせた。んもう、通報した人仕事が早い!
急いで向かうと、武士と女の子が警察官を前に涙目で震えていた。あれ? よく見りゃあのおまわりさん……。
「あ、どうも大家さん。ご無沙汰しております」
男前のお兄さんが、帽子のつばをつまんで頭を下げた。色々あって知り合いになった、煮物が得意な警官さんである。
な、何事ですか?
「いやあ、武士さんが肩車した子供たちと鯉のぼりを掴んでる現場を目撃しまして。破れてしまうこともあるので、一言注意させていただきました」
あ……十対0で武士の過失。どうもすいませんでした。
「いえ、みんなも気をつけてくださいね。鯉のぼりが破れて泳げなくなったら、悲しいでしょう」
子供たちはもじもじと返事をした。やはりその中に背中を丸めた武士がいるのは、甚だ遺憾であったが。
しかし、いつまでも落ち込んでいられないのが武士なのである。
「よし! ならば今より『スイスイ鯉のぼり 鬼ごっこ大会』を取り行う!!」
何それ!!?
「つまりただの鬼ごっこである。公園内のみで行い、逃げる者は一度だけ『鯉のぼりわーぷ』を使うことができる」
鯉のぼりわーぷ!?
「息の続く限りスイスイ言ってる間は、無敵状態になれるのだ!」
息の続く限りスイスイ!?
「この人数なら鬼は三人! さあ警官殿も混ざれよ! じゃんけん、参るぞ!」
「え、あ、はい」
「じゃーんけーーん……!」
なすすべなく巻き込まれた警官殿と共に、この後三十分ほど鯉のぼり鬼ごっこを楽しんだ我々である。吹き流しルールや風向きルールなども追加され、意外にも白熱した戦いとなった。
「なんか……めちゃくちゃストレス解消になりました」
そして警官殿も、さっぱりした顔して去っていきました。武士は五回ぐらいこの人に捕まり、武士は一度も彼を捕まえられませんでした。
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