浦島太郎の黄表紙

 寒いので、今年もコタツを出した。

 するとスイッチを入れるなり、イチローの盗塁かコイツかぐらいの勢いで武士が滑り込んできた。


「まだ冷たい!」


 コタツってそういうもんだから……。

 しかし武士もとうとう現代日本生活が二年を越えてしまったわけである。お前もう武士名乗るのやめた方が良くない? そろそろこっちに永住する覚悟決めた方が良くない?


「覚悟などとうにできておる。武士とは、全ての覚悟を腹に括った者を指すのだ」


 首だけコタツから出して何か言ってんな。

 じゃあ何、お前江戸に帰るのは諦めたの?


「いや?」


 そういうわけでもないのか。


「だがなるようになると思う」


 行き当たりばったりである。覚悟って案外そんなものなのかもしれない。

 でもあれだね。もし武士が浦島太郎の主人公だったら、あんな悲劇的な結末にならなかったんだろうな。お前全然竜宮城で一生過ごしそうだもん。


「うむ。何の躊躇いも無い」


 やっぱりか。武士のクセに身軽だな……。


「ところで大家殿、浦島太郎を基にした話があるのはご存知か?」


 浦島太郎を基にした話? 知らない。


「浦島太郎と、浦島太郎の浮気相手である鯉の間に生まれた鯉女の話であるが……」


 え、知らん知らん知らん。マジで何それ。


「顔だけ人間で首から下は魚の赤ん坊。しかし乙姫に知られては困ると考えた浦島太郎により、赤ん坊は海に捨てられてしまった」


 浦島太郎クソ野郎じゃん……。


「なおこの時、浦島太郎は『浮気相手の子じゃなければ赤子を見せ物にできるのに』と言っておる」


 ドクズじゃん……。


「だが捨てられた鯉女は特に問題無く成長し、ある時平次という名の貧乏漁師の船に飛び乗ってきた。曰く『あなたのおかみさんにしておくれ』と」


 全人類の男が憧れるシチュエーションの一つ、押しかけ女房だ。でも流石に首から下が魚なのはなぁ……。


「鯉女はべらぼうにべっぴんだった為、平次も承知した」


 顔だけ良けりゃなんでもいいのか。


「そしてなんやかんやあり鯉女は遊女と相成るが……まあここから先は大家殿が自分で読んでくれ。某忘れた」


 ちょ、待って。気になる所でやめるんじゃねぇ。お前眠たくなってきただけだろ。


「箱入娘面屋人魚……」


 あ、はい調べる調べる。……あー、山東京伝ね!? アイツか! やっぱりアイツか!!


「ぐぅー……」


 そんでやっぱり寝やがった! やめろこたつで寝るのは!

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