おでかけ編3

 グロッキー気味の武士を乗せ、車は走るよどこまでも。

 トンネルに入った時は、「ぬうっ!? 夜!?」とびっくりしてました。そこまで暗くもないだろ。


 そして昼。私達は、昼食のために卸売市場に来ていた。


「魚のにおいがする」


 濡れた床と立ち込める生臭さの中、長靴をはいた人が忙しなく歩き回っている。

 それらを遠巻きに見ながら、私はある場所へと向かった。


「いらっしゃいませー! え、武士!?」


 元気な声と当然の疑問に、軽く頭を下げる。武士は「うむ!」と胸を張っていた。

 ここは、魚を買えばその場で捌いてもらって食べられるブースだ。分厚くてぷりっぷりの魚の刺身を、好きなだけ入れたほかほかご飯に乗っけて、醤油とかワサビで食べる。幸福が丼に凝縮されていると言っても過言ではない。


「ほへはひ、まひにひふふ……!」


 『某、毎日来る』。口いっぱいに頬張り、あまりの美味しさに若干涙を滲ませながら武士は言った。単純に喉に詰まらせただけかもしれない。

 毎日は無理かな。でもまた来ような。

 ところで武士は、周りの奥様がたに大人気だった。


「まー、立派な筋肉。素敵だわあ」

「綺麗なちょんまげねぇ。コスプレかしら?」

「否、これは某の本業であるゆえ」

「本業……。あ、俳優さんとかかしら? あらまあこの辺りでドラマ撮ってるの?」

「ドラ?」


 ドラちゃんは関係ないよ。なんか今日すげぇフューチャーしてくるな。

 ドラマだよ、ドラマ。お前もよく見てんじゃん。


「そこなお女中にスルメをもらったぞ!」


 そしてまんまとオヤツをせしめていた。コイツは何かと人から物貰うのである。

 お礼を言って、車の中にて二人で食べる。市販のものより美味しいような気がするのは、旅先ならではの不思議現象だ。

 目的地まで、もうすぐである。

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