ネタ帳

 小説を書くのが趣味である。

 そして最近は、無謀にも推理ものを書こうと試みている。


 となると殺人事件が起こるのは自明の理である為、どうやって人を殺すかを考えなければならない。計画的に殺すか、突発的に殺すか。どういうトリックを使うか、どんなアリバイをでっちあげるか。

 で、思いついたことをノートに書き殴っていたのであるが。


「大家殿……!?」


 ある日、それを武士に見られてしまった。

 つーか帰ったらノート持った武士がチワワみたいに震えていた。


 何見てんのよ。


「どどどどどこの御人を手にかける気だ!? そそそそそその早まるでない! 何か悩みがあるなら聞くぞ!」


 私の殺人計画を知ったというのに寄り添ってくれるとは、なんて優しいもののふだろうか。これには感涙を禁じ得ない。しっかり物理的な距離取ってやがるけど。

 いや返しなさいよ、それ。


「ならぬぅ! 大家殿を罪人にさせるわけにはいかん!!」


 いやいやマジで返してよ。そのノート無いと困るんだから。


「だがこれを大家殿に返してしまうと、明日(みょうにち)冷たき箱の中より生首が現れ出づるぞ!」


 確かに冷蔵庫に死体突っ込む話は考えたけどさ。現実には起こらないから。殺さないから。


「ならぬぅ!」


 ならぬぅ! じゃねぇんだよ。殺すわけないだろ。何、私そんなに人殺しそうな顔してるか。


「ある日突然思い立ち、ごみを捨てるに似た手際で淡々と本懐を遂げそうである」


 失礼な奴だ。

 いいから返せよ。ぶっ飛ばすぞ。


「ぬううぅ! まさか狙いは某かぁっ!!」


 そこに思い至るの遅いねー。武士は私に心許してんだか許してねぇんだかマジで分かんないな。いや殺さないけどさ。

 とりあえず膝を狙って隙を突き、ノートは取り返しました。武士はしばらくびくびくしていましたが、夕食にオムライス出したらもう忘れていたので大丈夫です。

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