写真加工アプリ
なんやかんや二百話を超えてしまった、この「武士がいる」。
ただ武士と同居しているという以外、マジでどこにでもいる一サラリーマンの私。しかし、そんな自分にも気になることがある。
――今これを読んでいる人の中に、果たして私のファンはいるのかということだ。
いたらプロポーズしてしまうかもしれない。あなたに贈る為だけに買った薔薇とか差し出してしまうかもしれない。
っていうか、シンプルに彼女が欲しい。
「大家殿の嫁事情はともかく、良い時代になったものだな」
そしてさっきから、床に寝転がって私のスマホを眺めている武士である。視線の先には、一年前に私がダウンロードして今や完全にただの壁紙と化した婚活アプリ。
「仲人を介さずとも、こうして妻を選び娶ることができるとは。うむ、これは良い。許嫁とは違い、きっと意にそぐわぬ出会いも減ることだろうからな」
いやー、どうだろうな。許嫁に悪い思い出のある武士さんには悪いけど、最近は写真加工アプリの躍進も目覚ましいものですよ。
「しゃしんカッコウぱい?」
もう全然覚えられてねぇじゃん。写真加工アプリ。顔とかすげぇ美人にできる不思議なアプリのことな。
「ほう?」
ものは試しだ、やってみるか。おいスマホ返せ。
……ほら武士。はい、ポーズ。
「む」
よし撮れた。見てみろ。
「むむむむむ誰だ此奴は!? え、某!? なんと、某の目が大いにこじ開けられておるぞ!!」
その通り。このアプリを使えばあら不思議、勝手に目とか大きくしてくれたり肌とか綺麗にしてくれたり痩せさせてくれたりするのだ。
つまり、上手くやれば自分とは全く別人の美人ができあがってしまう。
「なんだと……! では、某が先ほど見ていたこれら美しき女人は……!」
そう、幻かもしれねぇ。
「マボロシーーーー!」
人差し指振りながら言うな。
「だが、そうなれば何を信じれば良いのだ……!?」
まあ……話してみてからのフィーリングとかじゃない? 容姿を二の次においとけば、そこががっかり仕様でもどうでも良くなるかもしれないだろ。
「むむ……大家殿は玄人であるな」
いや、実際に出会ったこと無いから完全に偏見だけど。
「……とりあえず、大家殿もしゃしんを撮ってみるか?」
やー、それは今はいいかな。よく考えたら焦ってるわけでもないし。つーか早く朝ごはん食べ……。
「坊主!!」カシャッ
ポーズっつってんだろ! やめろや!
「お、撮れた。したらばどうすればよいのだ。これをこうして……ぬぬう? ぬう」
おいおいおいおいまさか婚活アプリに登録してねぇだろな。頼むよ、それならもっとヒゲとか剃ってから……。
「できた! 美しき女人!!」
女体化アプリ使うな! 武士のくせに器用だな、お前!!
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