エレキテルカミソリ
私も男だから、自然な生理現象として髭が伸びる。
別にそのまま伸ばしてもいいんだけど、残念ながら私の顔ではロバート・ダウニー・Jr.(アイアンマンの人)みたいなカッケェ髭にはならない。なんか小汚くなる。
よって、毎朝電気シェーバーを使っているのだが。
「便利である」
武士も慣れれば電気シェーバーぐらい使うんだなぁ。
「毛抜きやカミソリを使っていた時が嘘のようだ。あれに費やした時間は何だったのだ」
そう、ここに来た当初、武士は電気シェーバーにビビり倒したちまちまと毛抜きを使っていたのだ。けれどある日を境に、「エレキテルカミソリの使い方を教えてくれ」とやってきた。
その時は、武士も文明開花したんだなぁぐらいにしか思ってなかったんだけど。
……今見たら、ものすごく真剣な顔で無心に一方向にシェーバーを走らせている。往復式のシェーバーなのに。行ったり来たりできるやつなのに。
なんで?
「逆向きに使ってしまったら、また髭が植わるからである」
へ? 植わる?
「……田植えをする、エレキテルのくるまの如く……」
……。
……?
……あ、田植え機!!?
「いかにも!」
いや、電気シェーバーにそんな機能ねぇよ! 反対方向に動かしただけで、剃った髭をまた植えてくるわけねぇだろ! 不毛過ぎるわ!
「毛は生えるのに不毛とはこれいかに」
うるせぇな。
上手いこと言った顔すんなや。
「とにかく便利である。エレキテルカミソリ」
そして何度「そんなことない」と説明しても、武士はシェーバーを一方向にしか動かさなかった。今日も彼は、まったくのご機嫌でピカピカの顎を撫でるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます