新キャラオーディション1

 気づいたら、私と武士は長机の前に座っていた。


 ……なんだここは。それにここに連れてこられる前後の記憶が一切無い。まさか、これが噂の『◯◯するまで出られない部屋』――!?


 違った。振り返ったら、「『武士がいる』新キャラオーディション』と書かれた垂れ幕が壁にかかっていた。

 いや、何この空間。


「ではまず一人目! 入るがいい!」


 しかし隣のちょんまげは何やら事情を知っているらしい。奴の掛け声と同時に、目の前のドアが開いた。


「失礼します」


 入ってきたのは、着物を着た十代後半の可愛い女の子だった。彼女は一礼し入ってくるなり、パイプ椅子の隣に立つ。しばらくそのまま互いに無言だったが、ようやく思い至った私が手で示して椅子に座るよう促した。


「サチと申します」


 お目目がぱっちりとした花も恥じらう乙女の自己紹介に、武士はうんうん頷きながら尋ねる。


「それでは早速だが、特技を教えてもらおうか!」

「はい。私は、お掃除洗濯、お炊事と一通りの家事が得意です。武士様と大家様と暮らしましたら、必ずやお役に立てるかと思います」


 ……あ、なるほど。新キャラオーディション。そういうことね、そういうことか。ここでようやく私は、現在の状況が飲み込めてきた。

 つまり、今回は今後の『武士がいる』に加える新キャラを考える回らしい。はー、なんでもありだな、もう。

 そんで即採用だわ、このおサチちゃん。可愛いし家事ができるし、いっそ武士と交換して欲しい。そういう方向でちょっと調整できねぇかな。

 だがそんな私の思惑をよそに、武士は淡々と次の質問に移る。


「では次に、おサチ殿の望む展開を聞きたい」

「はい。私は、少女漫画展開のヒロインになりとうございます」


 ……なんて?


「具体的には、たくましい武士様と生活力の高い大家様との間に挟まれてゆらゆらしとうございます! 今日は武士様に誘惑されて、明日は大家様に誘惑されて! 私は二人に挟まれて、どちらを選ぶべきか胸を震わせて思い悩む……!」


 却ーーーーーーっ下!!!!

 ダメだって! あんなクソ狭い部屋をラブワゴンにできるか! どこにも行きつかねぇし、それ私が武士に負ける展開になったらどうすんだ! 追い出されんのか、私! 家主なのに!!

 はい、お帰りください! まったく、とんでもねぇ野望を持った子だな! 勘弁してくれ!


「うむうむ。確かに、某もおサチ殿に選ばれたからといって、大家殿をこの寒空の下に放り出すのは気が引けるしな」


 しっかり勝つ気でいるんじゃねぇよ。そこは私が勝つわ。バリバリおサチちゃんと幸せに暮らすわ。


「次の方ー」


 そんで続くのかよ、これ。マジかよ。

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