親知らず抜いてきた

「某が手を握っていようか!? そして大家殿が意識を保てるよう、声をかけ続けようぞ!!」


 私出産でもすんのかな。

 こいつぁ甲斐性の無い夫だぜ。


「それが許されぬなら、せめて舞を踊ろう!」


 夫じゃねぇな。奇人だわ。

 やめろやめろ、ケツを振るな。


 そんなこんなで、武士に見送られて行ってきました。


 結果。


「はーい大丈夫ですよーちょっと響きますよーチクッとしますよー痛いねー頑張ってねー大丈夫だからねー今から砕きます」


 めちゃくちゃ美人で溌剌とした先生に、一思いにやってもらいました。

 麻酔ガンガンかけてもらったから抜歯の痛みは無かったんだけど、なんか骨が癒着? してたみたいでね。終わった頃には一時間以上経っていた。

 ところで人間、痛みを感じなくても体がヤベェ状態になってたりすると、勝手に汗が出たり涙が出たりするもんらしい。知らなかったよ。


「歯が……粉々になっておっただと……!?」


 そしておうちに帰ってきて、武士に報告しました。

 うん、なんせ砕いたからね。「持って帰ります?」って見せられたけど、まあいらなかったよね。


「なんと……なんと!」


 武士はそろそろと自分のほっぺに手をやる。そうしてしばらくさすった後、鏡の前に行って口を開けた。


「わからぬ……」


 だろうな。


「しかし、大家殿は埋まっておった歯を掘り出されたと聞いた。ならば……よもや某の歯も、粉々にされるのか……!?」


 いや、知らんけど。中には抜かなくてもいい人がいるらしいけど。

 お前はそうだといいね。


「うむ……」


 武士は神妙な顔で頷いた。


 さて、今の私はまだ麻酔が効いている。

 痛み止めは貰ってきたものの、問題はここからだ。


 何を隠そう、三日目が一番ヤバいらしい。先生からは「これもうめっちゃくちゃ腫れるし痛みます! 頑張ってくださいね!」とのエールを貰ったが。

 はてさて、武士は腫れに腫れるだろう私の顔にどのような反応をするのだろう。

 それにより、今後の武士に対する私の処遇が変わってくるのだが。皆様、乞うご期待である。

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