家族が増えました

「赤ちゃんが欲しい」


 そんな武士の爆弾発言に、歯磨き粉を全部噴きそうになった(実際半分出た)。

 しかし、詳しく聞けば違った。

 シルバニアファミリーの赤ちゃんが欲しいらしい。


「最近もう、欲しくてたまらん。迎えたい」


 まあ分からんでもないよ。可愛いもんな。

 で、どの子にする?


「ぬ?」


 いや、ほら。

 いっぱい種類あんじゃん。


「い、いや……その、大家殿。よ、良いのか? 迎えるには、それなりに金が……」


 いいっつってんだろ。気にするなよ。

 たまにはサンタさんばっかりじゃなく、私もありがたがられたいんだよ。


「何の事だ?」


 何の事だろうなぁ。

 いいから赤ちゃん探すぞ。ほれほれ、どの子にするんだ。


「ぬうううっ! 決められん!」


 今から二時間後も同じこと言ってそうだな、お前。



 ――そして二時間後。



「ぬうううっ! 決められん!」


 ほらなー。

 武士は、パソコンと睨めっこしながら呻き声を上げ続けていた。


「一人一人姿を見ていたのだがな……! 彼らの身の上話を聞けば聞くほど、愛しくてたまらなくなるのだ……!」


 何よその身の上話って。


「うむ。例えばこの、チワワの赤ちゃん」


 ほう。


「この子は、積み木で遊ぶのが大好きなのだ……」


 ああ、商品説明のことか。

 シルバニアファミリー公式ページのこの紹介、本当凝ってるよな。


「赤ちゃんを商品などと言うでない!」


 ごめん。私が無神経だった。


「この子はキラキラ光るものが好きでな、うちに迎えたら山ほどのびぃ玉を見せてやりたい。そしてこちらの子は、流れ星がキャンディになると信じておる。窓を開けて星を見せてやりたい」


 そうかそうか。そりゃ悩ましいよな。

 でもさ、せっかくだったらにぼしとどんぐりに似てる子がいいんじゃない?


「と、いうと?」


 この子とかどうよ。シマネコの赤ちゃん。


「しまねこ」


 うん。

 ネコちゃんだけどさ、柄がシマリスみたいだろ? ちょうどいいかと思って。


「……おお」


 うん。


「おおおおおおお!」


 うんうん。


「……身の上話」


 そうだな。大事だな。

 そうしてシマネコのページをクリックした武士は、書かれていた内容を読むなり目頭を押さえてひっくり返った。


 何よ何よ、次は何だよ。


「……この子は、ちょっぴり泣き虫な子であるのだ……!」


 ほう。


「しかし、自分が泣いたら雨が降ると信じておるでな。故に、どうしても晴れて欲しい日には何があっても涙を我慢するそうなのだ……!」


 ……。


 めっちゃ健気な子じゃん……!


「だろう!? 某、この子にする!!」


 オーケー! Amazonゴー!!




 そうして即日、シマネコが届いた。

 腰を振り腕を振り、大喜びの武士である。さて、こうなると名前が気になる所だ。どんぐり、にぼし、ときたなら、さぞ可愛い名前がつけられるのだろうと思いきや……。


「銀之丞! お主の名前は、銀之丞であるぞ!」


 めちゃくちゃ渋いな!! なんでだよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る