蚊が嫌い

 蚊が、苦手である。


 いや、得意な人なんていないと思うけど。我こそは蚊と盃を交わし者なんてなかなかいないだろうけど。

 私の場合は多少アレルギーもあるのかね、大変腫れるのである。あとめちゃくちゃ痒くなる。余裕で一週間は痒い。しっかり跡にもなる。


 だが、これだけではない。




「うおっ、大家殿。なんだその腕は」


 ……。


 うん。


 びっくりした? ああ大丈夫。ハチに刺されたのかよってぐらい腫れてるけど、蚊だよ。安心して。


「もしやこの部屋におるのか? 尋常でないぐらい刺されておるではないか!」


 うん、腕と足と首とね。三箇所やられたね。


「し、しかし。某は一つも刺されておらんが……」


 ……。


 そうなのである。


 私は、えっげつないほど蚊に好かれる体質なのである。


 本当に、マジで好かれる。

 一般的に蚊に刺されやすいとされるのは、体温の高い赤ちゃんや妊婦さんだっていうんだけどね。そういった方々と並んだとしても、蚊は全部こっちに来る。そして周りの人は刺されない。

 もしフィーリングカップルみたいな場があれば、蚊の人はみんな私に矢印を向けるんだろうな。私は絶対選ばないからカップルは成立しないけど。いやなんだ蚊の人って。

 私のこの特性を知る山登りが趣味の知人は、何かと私を同行者にしようとしたものである。供物にすな。


 そういうことである。


「なるほど……それは難儀であるな」


 珍しく同情的な武士に、ちょっとだけ機嫌が直った。そうそう、そうなんだよ。


 でも、これでもだいぶマシになったんだぜ。

 蚊の研究をしてる高校生(当時?)の男の子が“蚊は足の裏の細菌に反応してるから、アルコールで拭いたら寄り付かなくなる”ってテレビで言ってくれてさ。それを実行したらバリ効きでね。もう私の夏はアルコールに始まりアルコールに終わる所あるんだけど。


「うむ」


 今年、アルコールが全然店頭に並んでなくてさ。


「……」


 うん。


「……うむ」


 私は多分、夏を乗り切れないと思う。


「悲観するでない」







「そういや、他に何か手立ては無いのか?」


 ガリガリくんを食べながら武士が問う。それを私はパピコ(キウイ味)(美味い)を食べつつ返した。


 手立て、ねぇ。

 ああ、そういう意味なら私、昔とある宗教法人の娘さんと仲良かったんだけどさ。


「うぬ」


 その人が、えらく蚊に刺されない人だったんだよ。


「ほう」


 で、どうしてかって聞いたんだけどさ、曰く「蚊が肌にとまった瞬間払いのけている」んだって。


「……」


 集中していれば分かるらしい。


「お、おお……」


 入信するかな。


「それも手かもしれんな……」

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