ミニカー
そろそろ、武士を車に慣れさせたいと思う。
何故、そんな発想をするに至ったのか。
それは、会社でとある主任からトミカのミニカーをもらったことに端を発する。
「息子の為に買ったけど、被っちゃった。奥さんにバレたら怒られるからあげる」
くれるものはもらう主義である。
物々交換というなら、こちらも武士を差し出せたのだが。
ともあれ、ミニカーである。私は、家に帰るなり早速武士に与えてみた。
「おお!」
やはり、食いついた。
小さくてかわいいものが好きなヤツなのである。
武士は赤い乗用車を手のひらに乗せ、ひっくり返したりするなどしてじっくりと観察していた。
「……動くのか?」
動かないです。
武士は残念そうな顔をしながらも、やはりミニカーはお気に召したようだ。
「しかしなんという職人芸であることよ。見ろ、大家殿。こんな中にまで細工が行き届いているぞ。ここまで車を再現できる者は、日本広しといえそう多くはないだろう」
……ああー。
えーとね、あのね、武士。
それね、まとめてラインで製造するんだよ。
「らいん……?」
そう、ライン。
型とかあらかじめ作っといて、まとめてたくさん作るの。
「……?」
あ、分かってねぇな、これ。
「……つまり、らいんと呼ばれる職人がたくさんいて、彼らに作り方を覚えさせ急いで作らせているということか……?」
どんなブラック企業だよ。
トミカは工場見学などもしているのだろうか。
百聞は一見にしかずとも言うし、連れて行ってやるのもいいかもしれない。
そしてあれこれやり取りしている間に、私は『武士を車に慣れさせる』という目的をすっかり忘れており、武士は今日も動く箱にビビり続けるのであった。
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