楽しみの痕は君と共に

星美里 蘭

楽しみの痕は君と共に

 『愛情表現』というものがあるが。

 いまいち私にはそれが理解できなかった。

 が、そういうものはしょうもなくいつでも付き纏ってくる問題であり、特にベッドの上ともなるとどうしようもなくそういったものを求められるのだ。

「……あんまり、気持ちよくなかった?」

(いや、そうではないが)

 私の液で濡れた彼女は私に体を寄り添わせ、丸くなる。トクドクと早い鼓動が、抱き寄せられた腕から聴こえ、少し汗ばんだ私たちがまた一つへと戻るのを感じる。

 いつもとは違う高さから見る彼女はいつもとは違う愛らしさがするし、私と混ざり合った彼女のニオイはどこか懐かしさを思い出す。

 舌切り雀のように口をつぐむ私に満足したのかいつもは私がするような激しい口付で無理矢理私の口に舌を入れて、絡ませる。くちゅくちゅと体液が絡まりあって、私の中に彼女と私が溶けていく。

 情熱的なキスは身を焦がす熱すらも引き取って、段々と私を現実世界へ引き戻す。

 いい加減戻ってきた心肺機能が、いい加減な切り方をした喉に驚いて痛みだしてむせてしまう。吐血が飛び散って私の頬をまた濡らす。

「あっ、ごめん。気管支に入れちゃった?」

 私の膝下を拾ってきた彼女が申し訳なさそうにこちらをみる。

「……ううん、大丈夫。ちょっと治りが遅かっただけだから」

「そっか! ならよかった!」

 嬉しそうな声をあげながら潰れた傷口に膝下を押し付ける。本当は痛いし治り遅くなるから、やめてほしいんだけど。

(でもまあ、楽しそうなら、それでいっか)

 真っ赤な彼女を見ながら、今日の愛は終わった。

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楽しみの痕は君と共に 星美里 蘭 @Ran_Y_1218

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